貴重な文献3万点収蔵 松浦史料博物館、閑雲亭(平戸市) 佐賀長崎 身近な歴史遺産「登録文化財」巡り

 土産品店などが並ぶ市街地にある平戸市鏡川町の松(まつ)浦(ら)史料博物館。門をくぐると、雰囲気はがらりと変わり、鳥のさえずりや虫の鳴き声が聞こえてくる。1893(明治26)年に平戸藩最後の藩主、松浦(まつら)詮(あきら)の私邸「鶴ケ峯亭」として建てられた。松材を使った造りが特徴で、2006年に国の登録有形文化財に指定された。
 松浦家は鎌倉時代から江戸時代にかけて平戸を本拠とした武士の一族。同館の久家孝史学芸員(50)によると、戦後の混乱の中、平戸や松浦家の史料は散逸の危機に直面していた。そこで貴族院職員や外務省外交顧問などを務めた地元出身の故山川端夫(ただお)さんらが中心となり博物館設立に取り組んだ。山川さんらは松浦家から鶴ケ峯亭の提供を受け、1955年に博物館を設立。山川さんは同館の初代理事長となった。
 館内には対外貿易やキリスト教関連の史料、江戸時代後期の藩主、松浦静山が設立した文庫に関する文物など約3万点を収蔵し、うち約200点を展示している。

貴重な文献などを収蔵している松浦史料博物館=平戸市鏡川町

 中でも貴重なのが、1587年に豊臣秀吉がキリスト教の伝道を禁じた書状「バテレン追放令」と、平戸の貿易商、小川家に伝わった「伝オランダ船船首飾木像」。1910年に英国で開催された日英博覧会に出展され、いずれも県指定有形文化財に登録されている。
 博物館の庭内には、詮が設計・建築を手掛けた茶室「閑雲亭」がたたずむ。ヨシぶき屋根で床柱には桜の木やネムノキといった自然の素材を利用。農家や漁師の家をイメージした開放的な造りで温かみを感じる。博物館と同じ2006年に国の登録有形文化財になった。

開放的な造りで温かみのある茶室「閑雲亭」

 閑雲亭は1987年の台風12号で倒壊したが、約1年の歳月をかけて再建。現在は江戸時代前期の藩主、松浦鎮信(しげのぶ)を流祖とする武家茶道「鎮信(ちんしん)流」の稽古に使われるほか、観光客への呈茶の場としても開放されている。
 「平戸の自然を体感できる場所であり、国内外の研究者が驚くほど史料も豊富だ」。久家学芸員はこう胸を張る。二つの建物からは平戸の人々が紡いできた深い歴史が伝わってくる。そんな趣のある場所だ。
 車で訪れる際は、西九州自動車道佐々インターチェンジを下りて、県道志方江迎線を直進。平戸大橋を通過後は平戸市崎方町の平戸港交流広場前から左折する。松浦鉄道(MR)を利用する場合は、たびら平戸口駅で下車。

◎ちょっと寄り道

 平戸城を一望できる松浦史料博物館の敷地内にある「Kitchen(キッチン)眺望亭」。地元の旬の食材を使ったイタリア料理がベースの洋食専門店として、小川浩司代表(45)が2016年に開業した。
 昼時には、トーストやサラダが付いて日替わりパスタかピザを選べるランチ(いずれも千円、税込み)を用意。地元で育てた豚肉を使った平戸島豚ロースカツカレー(1250円、同)や「平戸小麦」のバンズで挟んだハンバーガー(650円~、同)も好評だ。夜は2500円程度から予算に応じたコース料理を提供している。
 「食を通じ地域活性化に貢献したい」と小川代表。午前11時半~午後2時。金土日曜は午後5時半~8時も営業。眺望亭(電0950・22・7898)。

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