編集部はこう見た!「ハリルホジッチの土壇場解任劇」

今週、サッカーファンをにぎわせたヴァイッド・ハリルホジッチの日本代表監督解任。編集部内でもおのずと議論になった。そこで、各自の意見をまとめてみた。

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W杯開幕までもう65日に迫っており、監督を変えるにしてもこのタイミングしかなかったのだろうか。

ただ、田嶋会長の言葉からは、ここにきて選手と指揮官との関係が好ましくないものなっていたということが窺える。

このままの状態で本大会に臨むのはマズい…というなかでの決断だったのだろう。

ハリルホジッチの人物像、サッカー観については、協会も十分わかっていたはずだが。

そして、この交代劇によって本大会でいい結果が生み出せるのかも分からない。

とはいえ、これで今後は日本人を代表監督に据えるということの下地になれば、ここで大ナタを振るった意味はあるかもしれない。

(編集部I)

【次ページ】パスサッカーという幻想

弊社がハリルホジッチ監督就任時に出した原稿を見るに「つまらない、チームの構築に時間がかかる」ということを記載していた。

リール時代からハリルホジッチ監督のサッカーは決して面白みがあるものではなく、また選手を凄く選ぶもので戦術構築に時間を要した。リールでは2部にいたチームをリーグアン上位に導き、中田英寿擁するパルマをチャンピオンズリーグの予備選で下すなど日本でもインパクトを残した。だが、当時の選手たちはその後のビッグクラブでは活躍しきれなかった。ハリルホジッチという監督の戦術は彼の戦術上で輝く駒であり少し特殊なものである。

そして、一方でスター選手でも容赦なく外す。アルジェリア時代もキャプテンのマジッド・ブゲラをワールドカップ中にスタメンから外しているし、調子と自分の戦術に合わない、従わない者へは厳正な対処を行う。

そう考えるとハリルホジッチのチームの完成形は「決して有名な選手が必ずしも出場するわけではなく」、「面白くはないが」、「決勝トーナメントへのチャンスをハリルホジッチ的には最大限突き詰めた」というものになるだろう。つまり、本大会で結果を残す以外は全て捨てているのだ。その点において、ハリルホジッチ監督と選手、協会とのコミュニケーション、共有はどれほどなされていたのだろうか。

一方で、田嶋幸三会長のいう「1%でも2%でも勝つ可能性を追い求めたい」という言葉はあながち間違いではない。多くの国は本大会前にチームの練度を大きくあげるからだ。予選と本大会は別のチーム、ということは珍しくない。監督解任で分析情報が0になるわけではないだろう。協会のサポートで引き継げる部分も多くあるはずだ。だから、私は2か月という期間は短いとは思わない。

ただ、日本らしいサッカーといってパスサッカーを割と重んじた2006年W杯も2014年W杯もグループリーグで敗退している。それは本当に“強み”なのだろうか。

W杯でベスト16に進出した2002年、2010年は守備の側面が大きく取り上げられた。トルシエJAPANの「フラット3」はその最たるものだ。私は日本の強みはむしろ“おしん”のように耐えてカウンターにかけることをチームでできることだと思うのだ。それこそロンドン五輪だって永井のカウンター戦術がはまったではないか。

日本らしいサッカー=パスサッカーというのは幻想のようなものだ。ハリルホジッチ監督が取り組もうとしたゾーンディフェンスやデュエル、ハイプレスといったキーワードはむしろ守備を強化するものであり、その完成形を見るチャンスを逸したことは非常に寂しいものだ。

(編集部Q)

【次ページ】奇襲作戦だ!!

ハリルホジッチを解任すれば勝利の確率が1%でも上がる…という根拠が示されない時点で、田島会長の説明は議論のテーブルに乗せられないレベルのものだ。解任が一概に悪いとは言えないが、あの話しぶりでは本当に確固たる自信があって首を切ったのか?と疑いを持たざるを得ない。

「俺はやれることはやった」という言い訳の材料に解任したのではないか…と否が応でも感じさせられる。もしそうだとすれば、腹をくくれないトップを持つ組織は不幸だ、というだけだ。

そもそも相手の分析作業だけでも65日では足りないのではないか?現代のサッカーは異常にスピードが速くなっており、1つの新しい戦い方があったとしてもすぐに陳腐化される。特にポーランドやセネガルなどは大して予選と本大会で戦い方が変わらないチームなのだから、対策すればするほど有利になる相手だ。

ただ、1つポジティブな点があるとすれば、「誰も日本代表がどう戦ってくるか全くわからない」。奇襲を仕掛けやすい立場にあるとはいえる。逆にこれで普通にW杯をやられても、トリッキーな監督交代をした意味がない。

堂安を中心としたサッカーに変えるなどドラスティックな選択をし、少なくともアジアカップまでは指揮すべきである。そしてもし西野朗監督が2022年までやるのであれば、この2018年の経験が大きなものになる可能性はあるのだから…。

(編集部K)

【次ページ】黒歴史にならないことを願う

単刀直入に言って、このタイミングでの解任はメリットよりもデメリットのほうが目立ち、協会が賢明な判断を下したとは言い難い。

筆者は、ハリルホジッチのマネージメントや方針を賛成していたわけではないが、「ここまで来たのであれば、彼と心中する覚悟で本大会に臨んで欲しかった」というのが正直な感想だ。

ハリルホジッチの武器は、「良き集団」を作ることではなく、ワールドカップの本大会で勝つためのサッカーを貫くことであり、その準備や競合相手の対応策に長けている点である。当然ながら協会側もそれを理解した上で招聘したはずであり、これでは「何のために呼んだのか」がわからない。

また、この電撃的な解任劇の経緯を説明した田嶋幸三会長の会見についても、全くもってスッキリとしない言い回しばかりで、「解任理由」がはっきりと語られなかったことも残念だ。当然ハリルホジッチ自身には筋が通った別の説明がなされているのだろうが、日本代表を応援する周囲が納得するような説明は聞きたかった。

無論、「選手との信頼関係の欠如」については代表界隈では聞こえていた声であり、実際、「監督のやり方は日本人向きではないと思う」という意見が現場で起こっていたことも耳にしている。しかし、ハリルホジッチの「頭の固さ」、「頑固な気質」、「管理型の指導方法」は就任前からリサーチされていただろうし、こうなることはある程度予見できていたのではないか。

にもかかわらず、「サポートしてきたがそれを止められなかった」と自己分析するのならば、監督やコーチを任命した協会側の責任のほうが重いと言える。フットボールの強豪国であれば、代表チームの失墜は、監督や選手だけではなく、協会側にも大きな責任が問われる問題である。日本代表が彼らのような列強を目標にするつもりがあるならば、W杯の本大会の結果を問わず、終了後にはしっかりとした振り返りを行い、首脳陣も責任を取るべきだろう。

「アフリカや中東のお家芸」とも言える行為を我が国が行ってしまったことが、本当に恥ずかしい限りだ。この一連の騒動が日本サッカー史における黒歴史にならないことを切に願う。

(編集部T)

【次ページ】尊重されるべき

率直にいってハリルの心中を想うと胸が痛む。しかしそれは義理人情、もっといえばセンチメンタルな感情論であり、客観的に見れば驚くべきことでもない。

今アジア予選が始まって以降の日本代表は厳しい戦いの連続であった。それでも2014年のアルジェリア代表のように、本番で大仕事をやってのけることがハリルの使命である、私はそう腹を括っていた。

ちなみに本番で結果を残せばいいという考えは、切り替えを得意とする欧米的な発想といえる。過程を重んじ、切り替えが苦手な文化・民族性を持つ日本人には、根本的に合っていないと感じる。しかしそれを承知の上で彼を選んだのだから、プロセスに目を瞑ってでも本番で大輪を咲かせるための種が蒔かれていればいい。

見事な試合運びで6大会連続ワールドカップ出場という「結果」を掴み取った昨年8月のオーストラリア戦は、その大きなモデルだった。ここまでは順調に任務を遂行したといえる。

しかし本大会に向けチームを作り直す道筋で進路を誤った。試合数が限られる中で基礎を固められず、習熟度の低い選手たちは不甲斐ない戦いをすることで案の定、次第に自信を喪失し、本大会が迫る重圧もあって指揮官に対する信頼も揺らいでいった。

ハリルの戦術眼や分析能力を評価する声は大きいが、マネージメントも指導者として重要な仕事である。どんなに理論が優れていても組織がそれだけで回らないことくらい、今日、社会人1年目の若者でも知っている。

今年の春は気温が高く、桜は早々に満開を迎えたが、ハリルの蒔いた種はロシアの地で開花を迎えることはおろか儚く散ることさえ叶わない―――協会はそう判断したということであろう。

根本的な問いになるが、ワールドカップで結果を残すことと、サッカー界が発展することはイコールではない。経済的な成功や文化的な広がりを望むなら、親善試合でも十分達成できるし、本大会で結果を残したからといって競技レベルが向上するわけでもない。ハリルに導かれベスト16を達成したアルジェリアは、今回、予選で敗退している。現在の彼らに何が残っているのだろうか。

田嶋会長は、確かに一人の男の顔に泥を塗った。首をはねたのだ。もし本大会で結果を残せなかったとき、彼は腹を切らねばなるまい(もちろん比喩的な表現である)。しかし、あらゆるものを捨てて、誰からも批判されることを理解したうえでこの決断を下したのだから、それは尊重されるべきである。

(編集部H)

【次ページ】可能性をもっと提示できていれば…

監督交代には遅すぎる時期であり、本大会までハリルホジッチ体制を継続するべきだった。田嶋会長の言葉にも引っかかる点は多く釈然としない。

ただ一方で、ピッチ上のパフォーマンスだけを見た場合、解任する理由について理解もできる。キーになったのはやはり個人的にも違和感を覚えた3月の2試合だ。

EAFF E-1選手権までは本大会への準備が順調に進んでいるとみていた。予選の豪州戦2試合でチームのベースははっきりしており、後は最終的に必要な23人を見極め、メンバー選出後に戦える状態へ仕上げる。それが本大会までの流れだったはずである。

ただ、3月の2試合を見て、チーム全体が持つ基準が思った以上に低いと感じられた。もともとハリルホジッチ監督のサッカーに適合する日本人選手は限られており、「帯に短し襷に長し」な選手も多い。そのなかでやり繰りをする必要があるが、これだけ怪我や出場機会減少などでコンディションが整わない選手が出てくると事前の想定にも狂いが生じてくる。その際にチームのクオリティを維持するための柔軟性や“次の一手”に関して、本大会までまだ時間があるとはいえ不安が否めなかった。

また、選手は人をつかまえる守備などハリルホジッチ監督の指示を必死に実行していた。ただ、その結果守備が崩壊してしまう。チームとしてのビルドアップの拙さといった攻撃面の問題も含め、「こうするべきだと思うが監督に従わざるをえない。しかしそれが全然うまくいかない」という状況は相当なストレスだったはずだ。

手法としてハリルホジッチ監督のやり方はおそらく間違っていなかった。ただ、彼がこれまで率いてきたのはフランスやフランス語圏のアフリカ諸国であり、日本において様々な面でチームと折り合いをつけることはこれまでよりも難易度が高かったと思われる。

最終的に本番ですべてがひっくり返った可能性はあるが、その可能性を選手や協会関係者にもっと提示できていればこのような結果にはならなかったのではないだろうか。

(編集部O)

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