復興願い、定年全う 陸前高田市派遣・中丸勝典さん 大和市

趣味のアルトサックスの演奏で市民の癒しの空間を演出。先月には地元の人がお別れ会を開いてくれた

 大和市から東日本大震災の被災地、岩手県・陸前高田市に派遣されていた中丸勝典さん(60)が先月、定年退職を迎えた。担当の仕事を「納得できるところまでやりたい」と任期を2度延長しての節目に「やり遂げた」安堵の笑顔が広がった。

 中丸さんは震災翌年の2012年から休みなどを利用し、定期的に被災地でボランティア活動を行っていた。当初はがれき処理などが多かったが、趣味のアルトサックスを活かし、復興支援のイベントや仮設住宅に住む高齢者たちに歌ってもらおうと伴奏を買って出ていた。しかし「果たしてこれだけで良いのか」との思いが募り、庁内の職員派遣の募集に手を挙げた。

 15年4月1日から陸前高田市の農政課職員として勤務。当時は、津波の被害にあった街をかさ上げするため、山を切り崩し、多くのダンプカーが走り回る状態。4、5階建てのビルほどもあるベルトコンベアで土を運ぶ様子に「鳥肌が立った。やっていけるのだろうかと不安になった」という。

 市役所は津波の被害を受けたため、高台に2階建てのプレハブ庁舎が建てられた。そこで中丸さんは、担い手不足の農業を維持するため交付金を支給する業務を担った。住まいは中学校の校庭に建てられた仮設住宅を借りた。「内陸ほど寒くもなく、思ったより快適に過ごせた」という。山車を引っ張る「うごく七夕」などの祭りや、農家レストランで地元ならではの食事などを楽しみ、休みの日には趣味のサックスも披露した。

 「より地域に根付いて、生活をしながら手伝いが出来れば」と任期を1年延長。昨年3月には「ちょうど定年なので、最後まで務めよう」と再度任期を延長した。「昨年夏くらいから中心市街地に図書館ができ、商店街も復活するなど、目に見えて復興してきた」という。昨年5月には全国から派遣された職員の発案で吹奏楽団を発足。中丸さんもサックス奏者として名を連ねた。

 中丸さんは大和市の再任用で、4月から健康づくり推進課に所属。保健福祉センターで職務に当たっている。陸前高田には「せっかくつながりができたので、この先、田植えや稲刈り式などイベントの時などに顔を出せれば」と話している。

 中丸さんが住んでいた仮設住宅は、3月31日で閉鎖。4月以降解体され、中学生たちの校庭として、使用される。
 

4月から再任用で保健福祉センターで働く中丸さん。陸前高田には「イベント等の時に顔を出せれば」と話す

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