災害救助で攻防大詰め 神奈川“主戦場”に都道府県と政令市

 災害時の仮設住宅整備など被災者支援の権限を都道府県から政令指定都市に移譲する災害救助法の改正を巡る議論が、大詰めを迎えている。「政令市の災害対応力を十分活用できる仕組みに」「他市町村の被災者と不公平が生じる懸念がある」。改正を求める政令市と反対する都道府県の主張は平行線をたどってきたが、政府は今国会での法改正を視野に近く結論を出す方針。地方分権改革に絡めた攻防は、神奈川が“主戦場”となって決着しそうだ。

 「政令市を抱える知事と政令市との間で、まだ100%の理解が得られていない」。12日の衆院災害対策特別委員会。小此木八郎防災担当相(衆院3区)は、知事と政令市長の綱引きが続いている現状を認めた。

 立憲民主党の早稲田夕季氏(同4区)の質問に対する答弁で、「防災部局として努力しているが、時間をかけて議論している間に災害が発生したらとんでもない」とも言及。権限移譲に向けた法改正に理解を求める立場を強調した。

 災害救助法は、仮設住宅整備や避難所運営などの権限は都道府県にあるとし、知事は市町村に事務委任できると規定。内閣府の実務検討会は昨年12月、「道府県と連携が取れる政令市を新たな救助主体とするため、法改正が適切」とする報告をまとめている。

 しかし、都道府県側は「政令市だけに権限を移せば、被災者支援で他の市町村と不公平が生じる懸念がある」と反発。黒岩祐治知事も今年2月の県議会で「3政令市を抱え救助主体が多様化し、資源の適切な配分などに影響が出る恐れがある」と述べ、大規模災害訓練や広域消防の取り組みに逆行するとして反対の意向を示している。

 一方、全国20政令市の声を代弁するのは横浜市の林文子市長。東日本大震災や熊本地震で被災した政令市からは「県の調整を待ち、仮設住宅の設置が遅れた」(仙台市)といった声が上がっており、指定都市市長会の会長として国に早期法改正を要請してきた。

 地方分権改革に絡めた県と政令市の権限移譲問題。双方の溝は埋まらないまま攻防はヤマ場を迎え、13日には自民党が設けたヒアリングの場に黒岩知事と林市長が出席し、それぞれの主張を訴える予定だ。全国知事会長の代理で出席する黒岩知事が期せずしてお膝元の林市長と“対決”する形となり、関係者は気をもみながら決着の行方を見守っている。

 同法の見直しを巡っては、阪神大震災後から政令市側が要請。政府は2015年に「救助事務の委任は現行規定上も可能」と、法改正の必要はないとする考え方を閣議決定していたものの、16年の熊本地震を機に再燃。議論は平行線をたどっていたが、同年末ごろから国主導による法改正の動きが加速していた。

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