東京にて

 出張先の東京。夕刻のビジネス街で、真新しいスーツを着たいくつもの若者グループとすれ違った。入社間もない新人だろう。その中に、本県から上京した若者も含まれているだろうか▲住民基本台帳人口移動報告によると、2017年に本県から他県へ転出した20~24歳の数は6940人。長崎労働局によると、今春の県内新規大卒者が県外で就職を決めた割合は63・7%。いずれも前年より上昇した。若年層の人口流出は止まらない▲「東京には何でもある」と、筆者の友人は30年前、憧れを込めて語った。仕事の機会も、人との出会いも、多様な娯楽も。だから東京で就職すると▲若者を吸引する東京は「人口のブラックホール」だと、「地方消滅」の編著者、増田寛也氏は言う。子育ての環境が整わず出生率が低い東京に若者の流入が続けば、人口減に拍車が掛かるという指摘。人口移動は日本の将来の形を左右する▲とはいえ、若者が視野を広げ経験を積むため、いったん外へ出ることは悪いことではない。社会人として力を蓄えたら、いつかはふるさとに帰って、その力をふるさとに役立ててほしい▲もう若くない筆者の場合、どこまで行っても途切れないビルの谷間や、駅の乗り換えのややこしさに疲れ果て、1日で長崎に帰りたくなったけれども。(泉)

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