【現場を歩く】〈大同特殊鋼・保全技能向上の取り組み㊤〉「マスターズ」毎年開催「若手」育成、技能磨く 職場活性化、安全性も改善

 製鉄業は巨大な装置産業。生産現場で人の姿を見る機会は確かに減っているが、装置類も、いつも調子よく稼働しているわけではない。メンテナンスは日常的に必要であるし、トラブル時、装置は自らの異常を自分では治せない。現場の人材が、どう迅速・正確に対応するか。その技能が生産活動に直結する。保全技能を磨くことで、長時間停止などを極力減らし、安全な職場と生産性向上につながる。一方で、生産現場では人材不足と競争力確保のための合理化などで保全技能の維持・承継がテーマともなっている。大同特殊鋼がグループと一体で続けている保全技能の維持・向上のための取り組みを、紹介する。(片岡 徹)

 大同特殊鋼が毎年開催する「保全技能マスターズ」が、着実に現場の若手育成、技能伝承の場として根付いている。設備と人が一体でつくり出す「鋼」の技能競技の現場。

 同社・星崎工場内の技術学園実習場には、午前9時からの競技会を前に、開会式を開催。しだいに緊張感が高まってくる。

 朝から集まった出場選手の表情は、真剣そのもの。参加者は、保全技能を担う各職場の代表15人。機械・電気の2部門で、日ごろの「技」を出し合う。

 9時まであと10分に迫る。合図を待つ間も、選手は自分の道具、服装などのチェックを怠らない。道具はきちんと作動するか、グローブやゴーグルに異常はないか、など。そうした準備活動も、審査対象になる。日常業務の大切さを再確認させられる。

 この競技会は、07年に電気系で開催したのが始まり。当時に、改善成果を発表する保全発表会(年2回開催)も立ち上がった。

 この流れが機械系にも伝わり、09年からは2部門がそれぞれに競技会を開始。これらが統合されて「マスターズ」となってから2018年で5回目となる。

 参加者は、星崎、知多、渋川、築地の各工場と東北特殊鋼、大同テクニカ、大同マシナリー、丸田運輸で保全業務を行う入社10年目までの若手。

 各職場の代表は、職場の期待を一身に背負って本番を迎える。目に見えぬプレッシャーも相当なもの。

機械系    

 機械系は、厚板をケガキ、ガス溶断してまずスパナを製作。次に溶接作業。切り材を組み合わせ、密封箱を製作する。製缶作業だ。箱内に水を送り、溶接作業が完全かどうかもチェックする。

 この両作業の打ち切り時間は1時間。短い。安全で迅速・正確な作業が求められる。見つめる審査員の表情も緊張気味。

電気系

 電気の部では、まずシーケンス設計・動作調整。配線作業を行い、ベルトコンベアーの制御を行う。これを55分以内に行う。次に、三相モータの正逆転回路の製作。展開接続図を作成し制御盤に回路を製作する。この課題は、1時間50分以内に実施する。ハイレベルだ。

 競技はこれで終わらない。午後からは学科試験。45分間で、101の専門的な質問に答える。

 今回の競技の結果、機械の部では加藤直樹氏(星崎工場)が優勝、井上遼一氏(大同マシナリー)が準優勝、3位は天草勝哉氏(丸田運輸)が獲得。電気の部は樋口優士氏(知多工場)が優勝、大賀佑也氏(知多工場)が準優勝、3位は菊田翔氏(知多工場)となった。

 生産性向上に直結するとともに、職場の活性化にもつながるマスターズの開催。来年以降もさらにハイレベルな競技が期待でき、保全技能の育成・技能継承につながりそうだ。

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