事実ならアウト

 「事実ならアウト」と麻生財務相は言いつつ、いったんは口頭注意にとどめた。当の本人も「心当たりがない」と否定。だが昨夜、急転直下の辞任に追い込まれた。財務省事務次官のセクハラ疑惑▲週刊誌報道によると、次官は夜にたびたび複数の女性記者を呼び出し、性的な発言を繰り返していたという。熱心に取材活動する記者を侮辱する行為であり、確かに事実ならアウト▲重要なのは事実かどうか。財務省は、報道内容を否定する次官のコメントを公表した上で、女性記者に対して調査協力を要請した。「なかったと言ってるんだ。文句があるなら名乗り出ろ」と言わんばかりの手法に、各方面から批判が噴出した▲セクハラの告発が難しいのは、弱者が強者を訴える形になるからだ。強者に自制を求めても、当人が聞き入れなければどうしようもない。当人の言い分を丸のみする組織が実施する調査を信頼できるだろうか。事実解明を目指すには配慮が欠けている▲辞任の理由は「こういう状況では職責を全うできない」とのこと。次官はセクハラ発言については否定を続けている▲事実かどうかの解明が棚上げされたまま、次官の職務遂行にアウトの判定が出たことに、納得できない思いを抱く人もいるだろう。「事実ならアウト」のはずだったのに。(泉)

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