全国の自治体で犯罪被害者や遺族を支援する条例の制定が広がりつつある。県内では佐世保市が4月に施行した。「経済的支援がすぐに受けられない」「行政の窓口でたらい回しになる」「周囲の心ないひと言で二次被害に遭った」-。被害者側が抱える悩みの解決を目指す自治体の取り組みを取材した。
支給に半年以上
「相談に来た女性は性犯罪に遭い外出できなくなった。仕事もできなくなり当面のお金にも困っていた」
県弁護士会犯罪被害者支援特別委員会の委員長でもある飯田直樹弁護士は、ある被害者の窮状を振り返る。国の犯罪被害給付制度では、申請から支給まで半年から1年程度かかるという。
一家の大黒柱が犠牲になれば家計は苦しくなる。ストーカー被害などで引っ越しせざるを得ない場合もある。だが、県弁護士会によると、生活保護や公営住宅の入居を申請しようにも行政窓口はバラバラだ。
飯田弁護士は「被害に遭った話をするのは一度でもつらい。行政でたらい回しにされて相談するのを諦める人も多い。本当に必要な人に支援が行き届いているのか疑問だ」と訴える。
こうした中、全国の自治体で条例制定が広がりつつある。県弁護士会などによると、犯罪被害者支援に特化した条例は、都道府県レベルでは少なくとも14道県が制定。昨年4月時点で市区町村の2割強が定めた。
相談窓口一本化
一方、県内では佐世保市だけにとどまる。同市の場合、遺族に30万円、けがをした人に10万円の見舞金を支給。市役所に相談窓口を設け、被害者の相談や要望にワンストップで対応する。見舞金支給や相談受け付けの実績はまだないが、同市の担当者は「条例をつくることで市民に取り組みを周知できる。最も身近な市役所が被害者の手助けをできれば」と語る。
今年4月に条例を施行した大分県は、都道府県では初めて、犯罪被害者らが直接的な被害を受けた後に傷つけられる「二次被害」の防止を条例に位置付けた。条例では二次被害を「周囲の無理解や心ない言動、インターネットを通じた誹謗(ひぼう)中傷、報道機関による過剰な取材などによる精神的苦痛、身体の不調、私生活の平穏の侵害、経済的な損失など」と定義する。同県内の市町村が犯罪被害者に見舞金を支給する場合には、半額を助成する仕組みもつくった。これが後押しとなり、18市町村が本年度から見舞金の支給制度を導入する見通しという。
継続的サービス
本県では3月、県弁護士会が県議会に条例制定を求めた。同月には条例制定を求めた意見書を県議会が可決。県は「制定も含めて検討する」とこれまでの消極姿勢を改めつつある。
県議会で条例制定を求めてきた山本啓介議員(自民)は「条例で県全体に『被害者支援を充実させる』という姿勢を示せる。被害者や関係者の話を聞いて長崎の事情を鑑みた条例をつくるべきだ」と訴える。
犯罪被害者支援に詳しい中野明人・長崎短期大教授は「条例があれば経済的支援や継続的な事業がしやすくなる。県内のどこに住んでいても一定の支援サービスを受けられるよう、県にはリーダーシップを発揮してほしい」と求めている。
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