もうすぐ初任給

 直木賞作家の朝井リョウさんは大学生の頃に作家デビューした。やがて企業に就職し「兼業作家」だった時期がある。入社してひと月は緊張のあまり〈「失礼いたします」を噛んだ結果「失礼しちゃいます☆」と言ってしまうというおちゃめ事故を起こしたりして〉、瞬く間に過ぎた(エッセー集「時をかけるゆとり」)▲今月、社会へ船出した人も、時には「おちゃめ事故」も起こしつつ、やることなすこと新しい日々を送っているだろう。もう一つの新しいこと-初任給をもらう日も近い▲パーッと使うのかと思ったら、1位「貯蓄」、2位「親にプレゼント」が飛び抜けている。三井ダイレクト損保が昨春、初任給の使い道を聞いたところ、地道でしっかりした新社会人像が浮かんだ▲昨年実施された別の調査では、初任給を使った親へのプレゼントで最も多かったのは「会食」で、お菓子などの「食べ物」「花」と続いた。今、人生初となる親へのごちそうのプランを練っている人も多いだろう▲その折は言いそびれてきた「ありがとう」の一言を添えてみては-と、遠い昔、初任給で感謝を表したような覚えはない身で、口幅ったいのだが▲自立の第一歩を刻む、今しか言えない言葉だろう。「失礼しちゃいます」も、初任給をはたいて発する「ありがとう」も。(徹)

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