【現場を歩く】〈大同特殊鋼・保全技能向上の取り組み〉「技能伝承道場」始動、効率的にスキルに磨き 「改善事例発表会」で職場を活性化

 生産現場の第一線で職務を遂行するオペレータが、設備の不具合等に即座に対応できる保全スキルを高め、次世代に承継することは、現場の安全と安定操業の継続になくてはならない。しかし、スキルアップのために活用できるまとまった時間は取りにくく、いかに効率よく技能を磨くか、も大きな課題だ。こうした中、大同特殊鋼(社長・石黒武氏)では、生産現場により近い場所で技能向上を図る「技能伝承道場」を知多工場内に設立。伝承活動の更なる活性化を図った。また、自主保全活動(TPM)の活性化を目的に「TPM改善事例発表会」を初めて開催した。その現場を訪れた。(片岡 徹)

技能伝承道場、年間700人を教育

 同社のTPM活動は1980年に開始。最近までは星崎工場での技能研修を主体に展開してきた。

 しかし、研修期間・移動距離などで「より効率的に活動が可能な体制づくりは何か」が模索され、今回、知多工場エリア内に道場を新設・本稼働した。

 日々の現場業務をこなしながら迅速に実技や理論が学べる場所として今年度は年間約700人の教育と27人のリーダー層を育成する計画だ。

 道場は建築面積301平方メートルの鉄骨造。座学が行える講習スペースと、実技用の各種装置や道具・冶具を完備する。

 メニューは、実技(潤滑、溶接など多岐にわたりきめ細かい)、座学、資格取得、新人教育、競技会の開催、改善発表会、出前教育で構成し、月ごとにテーマを設定する。

 研修を受けるメンバーの顔は、実に明るい。参加した現場の若手に聞くと「日常業務で保全についてより深く考え、具体的な示唆を与えられることはなかなかないが、研修に参加して、いろいろなことが分かった」「ものづくりに必要なスキルを教えてくれることは、大切だし参考になる」などの声が返ってくる。道場での研修を前向きにとらえている。

 また、職場でのダイバシティーも進んでおり、女性の進出なども目立つ。現場女子社員のものづくりへの情熱、真剣に取り組む姿勢なども垣間見ることができた。

 島ノ江高弘知多工場TPM・技能伝承チームリーダーは「『好きに触って、好きに学ぶ』ことで、たのしく身につくのが基本。次世代を担う若手が主体的に保全の知識を吸収し、スキルアップを図ることで、安全性向上、生産性向上につながる。粘り強く、着実に継続していきたい」と話す。

改善事例発表会、7つのテーマで

 道場は、TPM活動に大きな効果をもたらしているが、一方でメンバーがともに語り合い、ともに技能向上を考える機会を増やすことも、職場の活性化と次世代の活動推進リーダー育成のためには必要不可欠。

 そこで、今年から改善事例発表会を開始した。知多工場記念ホールに65人の現場第一線が集合し、7つのテーマで発表した。

 発表会のキーワードは「教育(点・線・面への成長)」。

 各テーマ15分の持ち時間で参加各工場の代表者が報告。テーマは「放電切断機洗浄作業の効率化」「予備品・遊休品の圧縮と予備品置き場の見直し」「発生源改善部会報告」など。

 限られた持ち時間の中で、各職場の代表は懸命に改善報告を行う。そして、他の参加者が報告を聞きながらそれぞれの感想、考えを述べる。会の形式は、あえて「既存の形式にこだわらない」をポリシーとした。

 真剣な議論は参加者一人一人に刺激を与え、モチベーションが高まってくる。ともに同じ課題に取り組むことで、仲間意識と仕事にかける思い、生産現場を少しでも良くしていこうという思いが強まる。各人の声を聞くことで、新しい発見、発想を得る機会にもなる。

 発表会の前日には「前夜祭」と銘打って懇親会も開催した。これも現場の一体感を醸成する工夫だ。

 発表会は今後、年1回開催し、各工場が持ち回りで実施する計画。前日には前夜祭を催しTPM活動の関係者が情報交換した。

 島ノ江チームリーダーは今回の発表会の公表として「JK(自主管理活動)やQCサークル発表会などの型にはまらないスタイルで実施し、内容、資料ともに充実した大会だった。質疑も活発で、現場に携わる皆さんの意欲が伝わってきた。人づくりを通じてものづくりの楽しさを味わい、次世代のリーダー育成につなげたい」などと語った。

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