「ヘイト根絶のモデルに」条例制定も提言 川崎市社会教育委員会議

【時代の正体取材班=石橋 学】社会教育のあり方を審議する川崎市社会教育委員会議(議長・上田幸夫日本体育大教授)は24日、2016、17年度の研究報告書「市民が生きやすい社会を創るために-多文化共生と子どもの人権」を市教委に提出した。在日コリアンの市民を標的に深刻な人権被害を生じさせているヘイトスピーチの問題を取り上げ、ヘイト禁止条例の早期制定などを提言している。

 「人権が守られる地域社会に向けて」と章立て、ヘイトスピーチをはじめとする差別解消に社会教育が果たすべき役割を考察。ヘイトデモに襲撃され、街ぐるみで反対運動を展開した川崎区桜本にある市ふれあい館の存在に着目した。

 同館は在日コリアン集住地域で差別解消を目的にした全国初の公的施設として1988年に市が開設し、子ども文化センター(児童館)と社会教育施設を併設した。差別のないまちづくりに取り組む社会福祉法人青丘社が運営を委託されている。

 報告書は「市が差別を許さない立場を堅持しているのも、ふれあい館を軸に地域で共生の街づくりが重ねられてきたため」と評価。先進的な人権施策の蓄積を生かして「自治体、市民、教育関係者が協力し、これからもヘイト行為を許さない環境を築いていかなければならない」としている。

 具体的には、ヘイト行為禁止条例の早期実現とインターネット上のヘイト行為の解消▽市ふれあい館の実績の市内外への発信▽市職員の意識向上▽社会教育施設での人権相談窓口の設置-など8項目を提言。

 同館で聞き取り調査を行った奥平亨副議長(絵本ナビ取締役)は「多文化共生に取り組むふれあい館は貧困など生きづらさを抱えた子どもたちの居場所にもなっている。市全域にあるべき施設として改めて評価されるべきだ」と話す。上田議長も「多文化共生、人権が尊重されてこそ生きやすさにつながる。そのための社会教育であり、ふれあい館は川崎市の財産だと再発見することができた」と強調した。

 同会議は学識者や教育関係者らで構成し、社会教育の計画立案や答申などを担う。報告書を受け取った渡邊直美教育長は「川崎市民によりヘイトデモが行われてきたことは残念。人権尊重教育の成果を振り返り、不足を補って充実させていかなければならない」と話した。

研究成果を報告する(左から)上田議長と奥平副議長=川崎市川崎区

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