南海トラフ備え着実に 専門家が地震対策提言

 南海トラフ巨大地震のリスクや対策の現状を学ぶ講演会が24日、横浜市中区であった。災害情報に詳しい東京経済大の吉井博明名誉教授が「切迫はしているが、多様な地震タイプのどれが次に起きるか分からない」と指摘。想定死者数が神奈川を含め32万人に上り、「国難」と形容される最大級のケースにとらわれず、地に足の着いた備えを着実に進めるよう促した。

 政府・地震調査委員会は南海トラフ地震が30年以内に起きる確率を最大で80%(1月1日時点)と算定。極めて高い数値だが、吉井名誉教授は根拠である過去の発生履歴の解明が不十分として「確率には不確実さがある」と政府評価の課題に言及した。

 国が警戒するマグニチュード(M)9の最大級やM8級の連動が「実際に起きるかは分からない」とした上で「可能性の低い最大級に備えようとするのは、過大な防災目標。対策を諦めるなどの逆効果を招く」と警鐘を鳴らした。

 県の被害想定で見込まれている建物被害や死者は、ほぼ津波が原因。そのため「迅速な避難が重要」と説き、一層の啓発や注意喚起が不可欠とした。

 また、国が約40年前から実現を目指してきた東海地震の予知を取りやめる代わりに、昨年11月に運用を始めた南海トラフ地震の警戒情報についても解説。同情報の発表時は「情報注意モード」や「部分的地震準備モード」など状況に応じた四つの対応策が必要と提言した。ただ、「避難が長期化すると、地震が起きない状態であっても関連死を招きかねない」として、段階的に対応を引き下げるような手だてを求めた。

 講演会は、横浜商工会議所と市による産業防災連絡会議が主催し、企業関係者ら約90人が参加した。吉井名誉教授は同会議の座長を務めている。

企業関係者らに南海トラフ地震対策のポイントを伝えた講演会=横浜シンポジア

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