米連続強姦・殺人、なぜ解明に40年もかかったのか 12人殺害45人暴行の疑い

By 太田清

殺人容疑で逮捕されたジョセフ・ディエンジェロ容疑者(サクラメント郡保安官事務所提供、ゲッティ=共同)

 米西部カリフォルニア州で1970~80年代に発生した連続殺人・強姦・強盗事件でついに、容疑者が逮捕された。同州北部サクラメント近郊に住む元警官ジョセフ・ディエンジェロ容疑者(72)で、遺留物のDNA型が容疑者のものと一致した。米司法当局はとりあえず4人を殺害した疑いで逮捕したが、事件では少なくとも12人が殺害され、45人が強姦被害に遭っており、さらに余罪を追及する。CNNテレビなど米主要メディアが一斉に伝えた。 

 犯人は「黄金州(同州の別名)の殺人鬼」などと呼ばれ、事件をテーマにした本がベストセラーになったほか、5万ドル(約550万円)の懸賞金も懸けられるなど一時、全米の注目を集めた。76年に最初の事件が発生してから逮捕まで40年以上。犯人は被害者ら多くの人に目撃され、似顔絵のスケッチも多数制作されたほか、エッセイや詩などを書き残した紙など遺留品も多かった。また、何度も警察などに挑発の電話をかけていたが、にもかかわらず事件解明までこれほどの時間がかかってしまった。 

 事件の捜査が長期化した一因として、それぞれの事件が同一犯によるものであることがすぐには分からなかったことがあるとみられる。米メディアによると、犯行の期間は76年から86年の約10年間にわたり、現場もカリフォルニア州北部南部の10以上の郡に及んだことから、当時は「黄金州の殺人鬼」のほか複数のあだ名が付けられるなど、同一犯とは結びつけられていなかった。 

 犯行手口が変遷したことも捜査を混乱させた。当初は目出し帽をかぶり女性1人の家に侵入し、ナイフで脅して乱暴や強盗を働いていたが、後にはカップルのいる寝室に入り込み、銃で脅して縛り上げ女性に乱暴する手法に変わった。最初は強姦や強盗だけだったが78年には犬と散歩中のカップルを襲い、射殺している。2001年になり、ようやく遺留物のDNA型が一致したことから、一連の犯行が同一犯によるものと確認された。 

 残された多くの遺留品も逮捕には結びつかなかった。77年12月には、サクラメントの地元紙やテレビ局に犯人が書いたとみられた、犯行をほのめかす詩が送り付けられた。78年12月には、襲撃現場近くでノートに書かれたエッセイが見つかった。犯人が書いたものとみられ「6年生の時の教師の言動が私を失望させ激怒させ、心の中に憎悪が生まれた」などと記されていた。別のページには手書きの地図が描かれ裏には「罰」と書かれていた。犯人は77年から78年にかけ、警察に「絶対捕まらないぞ」などとする電話を何度かかけたほか、暴行の被害者に「おまえを殺してやる」と警告する電話もかけ、一部は録音されている。 

 事件を受け、カリフォルニア州では2000年代に入りDNAデータベース設置が決まり、同州の犯罪歴のあるすべての人物のDNA型が保存されることになった。多くの未解決事件の解明につながったが、「黄金州の殺人鬼」逮捕にはつながらなかった。逮捕を発表したサクラメントの検察当局者は、捜査は「干し草の中で針を探す」ように困難だったと強調した。 

 ディエンジェロ容疑者は73年から同州中部オーバーンなどで警察官を務め79年、ドラッグストアで犬の防虫剤とハンマーを万引した容疑で捕まり解雇された。連続殺人が同容疑者の犯行であるとすれば、76年から79年の間は、警官を務めながら凶行に及んでいたことになる。 (共同通信=太田清)

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