駅のホームから落ちたらどうする? 落ちた人を見ても、引き上げるが無茶なワケ。まず何をする?

線路に落ちている人を見かけたら、どうすればいい?

GWでお出かけ予定の方もいらっしゃいますよね。あちこちでアウトドア特集の記事がありますから、今回はアウトドア記事はパスでいいかなと思ったりして(笑)

でも、今年のGWは暑くなるというので、水辺の事故がまた増えるかもしれません。この記事だけは読んでから出かけてくださいね!

■川の水難事故に、泳ぎのうまいへたは全く関係ない!? 海のアドバイスは川では使えません!川遊びのライフジャケットはシートベルトと同じくらい重要
http://www.risktaisaku.com/articles/-/1917

■楽しい川遊びの季節。大人も子どももライフジャケットを絶対に忘れずに!
野外で首浮輪・・ありえない水辺遊びはやめて!
http://www.risktaisaku.com/articles/-/2821

さて、今回は、電車を使ってお出かけの人に、この機会に家族に伝えておいて欲しい防災の知恵があります。それは、駅のホームから転落した際、どうするかということです。実は、アウトドアのテクニックとも若干関連しているんですよ!

先日のこと。友人のFacebookに以下のようなことが書かれていました。

駅ホームからの転落とその対策については、過去に何度か報道されたこともありますよね。でも、いざという時、対応できる人は少ないのかもと思いました。

クライミング技の誤解もよくある分野なので、検証してみたいと思います。「おっさん」という言い方がありますが、すみません。状況を思い浮かべやすいように原文ママで紹介しますね。

夜11時過ぎの小田急線、某駅ホームにて。
若いお兄ちゃんがなにやらしゃがみこんでいた。近づいてみると、ホームから落ちた酔っぱらいのおっさんを助けようとしていたんですわ。

あわてて手をさしのべ、おっさんをふたりでごぼう抜きに引き上げようとしたけど、おっさん重すぎて引き上げられない。くそー、もっと背筋鍛えておくべきだった。おっさん、外傷はないようだけど、酔いもあってか、立っているのもつらそう。ホームに手をかけられれば補助して引き上げられそうだが、それも無理な様子。

あわてて駅員を呼びに走り、なんとか救助されたのだけど、電車が入ってこなくってホントよかった。

って話を嫁さんにしたんですよ。そしたら「酔っぱらいでしょ? 助けるときに引きずられて、一緒にホームに落ちるとか、あと、電気の通っている線路を踏んで、助けようとしたとき感電するとか、そういうことがあるから、絶対先に駅員さんを呼びに行って!!」と怒られました。

レスキューの鉄則で「救助者の安全を確保する」というのがあります。電光掲示板を見て、そのホームに電車が入ってこないことは確認していたのですが、おっさんに引きずり込まれることまでは想像していなかったなぁ。中腰の姿勢で、重たいおっさんに引っ張られたら、こっちも落ちる可能性がないことはない。感電の件も知らなかったです。

「なにかあったとき、遺された家族のことも考えて」といわれ、レスキューについてもう一度勉強し直す決意をした、そんな夜。

みなさんだったらどうされますか?まず何をしますか?パーツごとに検討してみます。

あわてて手をさしのべ、おっさんをふたりでごぼう抜きに引き上げようとしたけど、おっさん重すぎて引き上げられない。くそー、もっと背筋鍛えておくべきだった。

とのことですが、背筋を鍛えていたら、ごぼう抜きで引き上げるってできるのでしょうか?

ドラマとかマンガでよくありますよね。崖から落ちている人を、手で掴んで引き上げるというシーンが。アニメだと、落ちる岩から岩へ飛び乗っちゃったりもできますし、それはさすがに非現実的だとわかる方でも、手で掴んで引き上げることについては可能だと思っている人は多いのではないかなと思います。

でも、残念でした。背筋を鍛えてる人でも、そうそうできないと思ってください。なぜかというと、最も強い力のことを忘れているからです。最も強い力、それは重力です。

イメージしてもらいやすいように、クライミングでロープを使って人を持ち上げる方法を紹介します。

クライミングとは違う!線路から人を引き上げるのは困難!まずは非常停止ボタンを押そう

クライマー墜落時のビレイヤーの衝撃(出典:Youtube)

こちらは、リードと言われるロープクライミングで、クライマーは支点となるカラビナに自らロープをかけながら登ります。それを確保する人(ビレイヤー)が支えます。

この時、体重が同じくらいの人であれば、落下するのを止めることができます。でも、動画を見ていただくとわかりますが、体重が軽い人であれば浮かび上がっています。

例えば80kgの人が落ちてくるのを支える場合、クライミングのビレイヤーは自分の体重を、重力を利用して下に向かってかけることができます。ですので、ビレイヤーが50kgだとすると80kg−50kg=30kgの力があれば理屈の上では止められることになります。

しかし、たった30kgであっても支点を中心にして、まるでシーソーみたいになるわけですから、50kgの人は浮かんでしまいます。それでも、クライミングでなんとか落下を止めることができるのは、摩擦があるからです。

これに対し、電車から落ちた人を引っ張り上げる時は、線路内はホームにいる自分より下になるので、自分の体重を重力を使って引っ張る方向にかけることができませんし、摩擦も使えません。かえって自分の体重は落ちる方向でかかってしまいます。ですので、80kgまるまる持ち上げる必要があるだけでなく、プラスして自分の体重分の重さを支えなければならないので、容易に自分も転落することになるのです。

また、以前、人を1対1で動かすには、重心を動かす必要があるということで、古武術の技を紹介しました。

■子どもが大人を救出できるかも!?古武術を使った救出技を身につけよう!
ポイントは「体幹」を使うこと
http://www.risktaisaku.com/articles/-/2685

ここで紹介したように、同じ体重の人であっても後ろに引っ張ることすら出来ないのに、どうして手だけで自分より下にいる人を引っ張りあげられるという幻想を持ってしまうのでしょう?重心ではない手を引っ張っても、相手の重心は、下がったままなので、全く動きません。

アニメやドラマに出てくる、がけから落ちる人を手で支えて引っ張り上げるということがいかに無茶ぶりかわかっていただいたでしょうか?

設題の場合だと、2人で引っ張ろうとしていますから、80kgの人だと40kgづつで引っ張りあげればいいので1人で引っ張るよりも半分の力ですみます。しかしやっぱり自分の体重も落下を防ぐために支えなければいけないので、腕の力、背筋の力だけではそうそう支えられるものではありません。

だから、多少腕力や背筋に自信があったとしても、人を引っ張り上げるのは難しいので、まず「非常停止ボタン」を押す!これが重要です。どの鉄道会社の案内でも救助をせずに「非常停止ボタン」を押すことをお勧めしているのは、救助者が危険になるからです。

レスキューの鉄則で「救助者の安全を確保する」というのがあります。

と書いていますが、本当にその通りです。

電光掲示板を見て、そのホームに電車が入ってこないことは確認していたのですが、おっさんに引きずり込まれることまでは想像していなかったなぁ。中腰の姿勢で、重たいおっさんに引っ張られたら、こっちも落ちる可能性がないことはない。

今度から自分も落ちることを、よりしっかり想像していただければと思います。落ちる可能性ないことはないなんて甘いものではなく、自分の体重も手伝って落ちる可能性の方が高いと言えるでしょう。

アニメやドラマの万能感を信じず、鉄道会社の案内に従って欲しいと思います!!よく使う駅のどこに非常停止ボタンがあるのかもあらかじめ知っておきたいですね。

出典:安全ポケットガイド(東京メトロ) https://www.tokyometro.jp/safety/prevention/safetypocketguide/pdf/safetypocketguide_all.pdf

非常停止ボタンと押すと、大音量と光(赤い光)が点滅します。

東京メトロ 非常停止ボタンを押したら (出典:あんどうりす/Youtube)

東京メトロ研修センターにて 非常停止ボタンを押す練習をした際の映像です。非常停止ボタンのほか、係員に通報するボタンや、新幹線については、火災時にとまらない方がよいので(トンネル内は通過した方がよいから)ボタンが2つあることなど、以下の毎日新聞のマンガがわかりやすくて子どもと一緒に確認できます!

■漫画で解説 非常停止ボタンって?の巻 (毎日新聞)
https://mainichi.jp/articles/20150824/mul/00m/040/00200sc

電車を止めるほどではない駅構内でのケンカの発見などで間違って非常停止ボタンを押さないように、あらかじめ知っておきたいですね!

ところで、この非常停止ボタンの色にも今後着目していただきたいと思います。以前カラーユニバーサルデザインという誰にでも見えやすい色について記事を書きました。

■その防災情報、実は見えにくいかも!人の見え方は5通りも!
防災情報はカラーユニバーサルデザインで♪
http://www.risktaisaku.com/articles/print/4427

2018年4月20日に日本工業規格(JIS)が改正されJISもカラーユニバーサルデザインに配慮した色使いに変わりました。

「日本工業規格(JIS)を制定・改正しました(平成30年4月分)~安全色及び安全標識などのJISを改正~」(出典:経済産業省) http://www.meti.go.jp/press/2018/04/20180420006/20180420006.html

 

これを受けて防災のデザインも変更していくことが予想されます。当然、非常停止ボタンも誰にでも見えやすいデザインに変わっていくかなと思います。

現段階で、小田急電鉄は2016年に非常停止ボタンだけではなく路線図なども、カラーユニバサルデザインに変更済みです。

小田急線非常停止ボタン (写真提供:伊賀公一さま)

非常停止ボタンのデザインは4分以降から(出典:Youtube)

今回は鉄道の話だから、うちの会社に関係ないと思っていた方も少しドキッとしていただければ嬉しいです♪

線路に落ちたら…見栄を張らずにホーム下の退避スペースへ!

さて、設題に戻りましょう。

って話を嫁さんにしたんですよ。そしたら「酔っぱらいでしょ? 助けるときに引きずられて、一緒にホームに落ちるとか、あと、電気の通っている線路を踏んで、助けようとしたとき感電するとか、そういうことがあるから、絶対先に駅員さんを呼びに行って!!」と怒られました。

一緒にホームに落ちる危険性については述べました。駅員さんを呼ぶより、非常停止ボタンを押す方が探しやすく先決ですね!最近では、鉄道会社は、転落検知マットや検知システムを導入しているところもありますが、全ての駅にあるわけではないので、非常停止ボタンを押すのが最優先です。

■さらなる輸送の安全確保のために「転落検知マット」を導入します
京成高砂駅1・2番線、3月17日(木)始発~(2016年3月11日 京成電鉄株式会社)
https://www.keisei.co.jp/keisei/kouhou/news/160311_02.pdf

それから、酔っぱらっていて意識がない人は応じられないかもしれませんが、駅の下に、避難スペースがあります。そこに避難するよう声かけもできますね

線路脇にある避難スペース 登るよりこちらに避難すべき (画像提供:あんどう りす)

落ちるとすぐに登ろうとするかもしれませんが、ホームの高さは130cmほど。腕力がなくても登れるのは、自分の重心のあるおへそ部分より上にホームがある場合です。上半身を乗り上げるようにして、自分の体重を利用しつつ、登ることが可能かもしれません。しかし、ホームが胸あたりでは腕の筋力が必要になり、肩のあたりでは、ほとんどの人が登ることは不可能と思った方がよいです。重力に負けてしまいます。見栄をはらずホーム下に退避と覚えておきましょう!

東京メトロ研修センターで、ホーム下に実際に降りて見て、容易に登れないことを確認後、ホーム下に退避することが説明されました (出典:あんどうりす/Youtube )

電気の通っている線路を踏んで、助けようとしたとき感電するとか、そういうことがあるから、絶対先に駅員さんを呼びに行って!!」と怒られました。

では、電気で感電するというのはどうでしょうか?

これは、本当なのです。お近くにいる鉄道ファンの方に「第3軌条ってなに?」と是非、聞いてみてください!嬉々として語ってくれる事間違いなし。採用電車まで教えてくれる事と思いますが、第3軌条方式というのは、パンタグラフなど架線から充電する方式だと広い空間が必要になり、地下鉄などでは不経済になるので線路から充電を行う方式を言います。この線路は、電気が通っているので、感電します。

札幌市営地下鉄 南北線
東京メトロ 銀座線 丸ノ内線
横浜市営地下鉄 ブルーライン
名古屋市営地下鉄 東山線 名港線 名城線
大阪市営地下鉄 御堂筋線 四つ橋線 谷町線 中央線 千日前線
北大阪急行
近畿日本鉄道 けいはんな線

(出典:Wikipedia)

という事で、線路に落ちると登ることも大変だし、引っ張りあげる事もアニメのようにはうまく出来ない、そして、感電の危険もある。だから、非常停止ボタンを押すべきということをGWでお出かけの際には、ご家族と一緒に再確認してみてくださいませ。

そして、余裕があれば、人を持ち上げるのがどれだけ大変か、クライミングではどうして登れるのか、お子さんと一緒に体験していただければと思います!アニメやドラマを空想だけのものとして楽しめるといいですよね!

それでは皆さま、楽しい旅を!

(了)

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