“認知”のプロセスで日々成長!バニーズ京都SCは「いつも通り」プレーする

今季なでしこリーグ2部へ昇格したばかりでありながら、開幕戦でちふれASエルフェン埼玉に勝利を収めたバニーズ京都SC。千本哲也監督が目指す攻撃的なサッカーは各方面から高い評価を受けており、今季の躍進が期待されている。

その後伊賀フットボールクラブくノ一にリーグ、カップで連敗したが、15日には愛媛FCレディースにアウェイで勝利。いい流れを掴んだあとに迎えた21日のなでしこリーグカップ2部第4節は…。

海外の日本代表最新情報、Jリーグ超ゴールはこちら

バニーズ京都SC 0-2 ASハリマアルビオン

開催日:2018年4月21日(土曜)14:00 KICK OFF 観客動員:180人

会場: 京都府立山城総合運動公園陸上競技場(太陽が丘)(京都府)

【得点者】<ハリマ>葛馬(80分)、千葉(85分)

「優れた選手とは、良い状況(時間とスペース)を受け手に与えられる選手である」

近年の欧州サッカーのトレンドとなっているポジショナルプレー。それに関する多くの文献を執筆したスペインの指導者オスカル・ペドロ・カノ・モレノの言葉である。

今季からプレナスなでしこリーグ2部に昇格して来たバニーズ京都SCは、格上相手にも独自のパスサッカーを貫こうとしている。それにはGKも含めたDF陣が相手のプレスから逃げずにパスを受け、中盤から前線の選手へより良い状況でボールを繋ぐバトンリレーが必要不可欠だ。

バニーズにはロングフィードが得意なセンターバックがいて、セットプレーのキッカーも務めるキック精度の高い両サイドバックもいる。だから、このサッカーが最も適しており、「いつも通りやるのが勝つ可能性が最も高い」(バニーズ・千本哲也監督)のである。

カップ戦特有の「テスト的要素」

『プレナスなでしこリーグカップ2部』は、なでしこリーグ2部全10チームを地域別に2組に分け、ホーム&アウェイ総当たり2回戦のリーグ戦を実施する。

西日本側に相当するグループBでは、伊賀フットボールクラブくノ一が開幕から3連勝。グループリーグ首位同士が対決する決勝進出に向けて、すでに頭1つ抜け出している。

初戦でその伊賀に敗れたバニーズは前節、敵地で日本代表FW大矢歩を擁する愛媛FCレディースを相手に0-2と快勝。それもDF山本裕美とMF松田望というバニーズらしいサッカーを体現するベテラン2選手が欠場し、新加入のDF野間文美加と加入2年目のMF酒井美鈴が初先発でフル出場した中で掴んだ、カップ戦初勝利となった。

この日のバニーズは、その山本と松田が先発に復帰。2部昇格を勝ち取った主力メンバー+大卒新人ながら先発に定着しているMF小川くるみ、という現状のベストメンバーを先発のピッチに送り出した。

ただ、昨年の3トップ<右・吉田早紀、中央・西川樹、左・佐藤莉奈>から、<右・佐藤、中央・吉田、左・西川>へと配置を変更。

「昨年の3トップの構成だと両サイドが高くて真ん中(西川)の方が下がってプレーするイメージだったのを、コンディションの上がっている吉田を最前線にして真ん中が最も高い布陣」(千本哲也監督)にトライしている。

一方、ここまでリーグカップ2連敗スタートのハリマは、後方の主力選手は継続して先発起用されたものの、高倉麻子現監督体制で日本代表歴もある千葉園子を筆頭に、葛馬史奈、内田美鈴といった個人で局面の打開を図れるアタッカー3選手がベンチスタート。

また、今季から主将を務めるMF小池快がシーズン開幕から担っていたアンカーではなく、センターバックで先発。攻撃時はトップ下となり、守備時にはボランチを担う千葉が先発を外れたこともあり、中盤の構成もボランチ2枚を置くオーソドックスな<4-4-2>に変更してきた。

リーグ戦では共に1勝1敗のスタートとなっている両チーム。1週間後のリーグ再開へ向けて、お互いに戦術的なオプションも試す試合となった。

“格下”とは思えないバニーズのサッカー

今季から2部へ昇格して来たバニーズだが、この日の対戦相手であるハリマの千葉は、

「バニーズは戦い方も含めて“強い”というイメージがあって、少しビビっていました。昨日もジェットコースターから落ちる夢を見るほどに(笑)。前半はベンチから見ていても押し込まれて危ない場面もありましたし」

と言うほど、バニーズのパスサッカーには強者のイメージもついている。

実際、今季から「5レーン理論」も取り入れてポゼッションサッカーにトライしているハリマは、序盤こそ中盤での攻防で上手く入ったものの、時間の経過と共に“格下”のバニーズがボールを保持して主導権を握る展開となった。

「佐藤も西川も引き出してパスを受けることも、ワイドで張るプレーもできます。それによって両サイドバックがより高い位置でボールを受ける狙いもあります」

バニーズの千本監督の言葉通り、この3トップの構成の方がチーム全体で押し込む展開が多くなるのかもしれない。自陣での丁寧なビルドアップで相手を誘い込み、ハーフウェイライン付近から相手の裏への浮き球やスルーパスを通して速攻に持ち込む、という昨年までのフィニッシュワークも強力な武器だが、引いた相手を崩す術は多く持っていたい。

また、チーム全体で相手陣内に押し込むことによって、ボールを失った直後のプレッシングから即時奪回できるようなコンパクトな陣形も自然と出来上がってくる。実際、この日もボールロスト直後からの連動したプレッシングでボールを奪い、決定機も作っていた。

勝敗を決めた「個人能力の差」

ただ、「押し込む展開になるのは想定内」と語る千本監督も「昨年の皇后杯や入替戦、今年に入ってからのリーグ戦も含めて、“格上”との対戦ではフィニッシュのクオリティの差は痛感しています」との言葉通り、決定機で決めきれず。

スコアレスで推移した後半、バニーズはその“フィニッシュのクオリティの差”を再び痛感することになる。

ハリマは54分に葛馬を左サイドMFに投入。速攻から彼女のドリブル突破で好機を作り始めると、70分には2トップを入れ替え、温存されていた千葉(上記写真:10番)と内田もピッチに立った。

そして80分、ハリマのDF須永愛海の右サイドからのクロスを、ファーサイドでフリーの葛馬が受け、左足を一閃。華麗なシュートがゴールネットを揺らし、ハリマが先制する。

続く85分には右コーナーキックをファーサイドで須永が折り返し、ゴール前に詰めていた千葉が頭で押し込んで追加点。

その後、2点を追うバニーズも攻勢を仕掛けたものの、ゴール前でのパスワークから巧みな身のこなしで小川が放ったシュートも枠を外れ、スコアは動かず。そのまま0-2でハリマが勝利した。

温存していた主力攻撃陣が2得点したハリマ。また、今季INAC神戸レオネッサから加入したDF須永が2アシストを記録。これまでCBとして起用されていたものの、本職の右SBに入って幅広い動きで躍動した。

また、怪我で戦列を離れているMF武田裕季がアウェイながらチームに帯同し、ハーフタイムにまでシュート練習のボール拾いを担当していた姿や、ゴール直後にベンチと一体となって歓喜するチームの雰囲気は良さそうだ。

いつも通り成長するために必要な「認知」

一方、ホームで完封負けしたバニーズだが、伊賀に敗れた後「もっと頭を使ってプレーしないと」と、話したMF林咲希。今季からアンカーを務める彼女はこの日、時より最終ラインに下がってボールを捌いた。

「相手が2トップなら最終ラインには3人いればいい」という千本監督の考えを基に、林やCBの石井咲希(上記写真:中央)や山本は、普段の練習から準備してきたパターンや循環を状況に応じて選択し、考えながらプレーした。ミスからGKと1対1の場面を与えるプレーがあってもトライし続けた。

いや、いくら最終ラインでのボール回しとはいえ、サッカーの試合の局面で選手が「考えている」のは、せいぜい1秒くらいの長さだ。実際には「考えている」というよりは、「直感」でプレーを選択している。

そう考えるとサッカーのプレーは、車の運転に似ている。我々が車を運転している時に、「考えている」のは、運転以外のことが多いはずだ。信号や道路標識を見て運転を操作するのは、ほとんど「条件反射」に近い。いちいち道路標識に出会ってから教則本で確認している時間などあるわけがなく、もし標識を覚えていないなら車を運転するのは危険だ。

サッカー選手はピッチの中でいろんな信号や標識に出くわす。今季から2部に昇格して来たバニーズの選手たちにとっては、初めて見る標識もあったかもしれない。完敗した伊賀戦は、「あの標識はなに?」と考えている間にボールを奪われてしまうような試合だった。

しかし、この日は林の母校・日ノ本学園高校の先輩・千葉が、後輩・林について「もともと足下の技術が高かったんですけど、あんなに落ち着いてプレーしているなんてビックリしました」と言葉にしていた。同様のことは、新人ながら定位置を奪っているMF小川にも大きく当てはまるだろう。

自動車教習所では、目視(認知)・判断・実行が運転の手順だと教えられた。サッカーのプレーに置き換えると、しっかりと「目視(認知)」して、状況を「判断」することで、良いプレーが「実行」される。

元スペイン代表MFシャビ・エルナンデスはこれでもか?と思うほど首を振り続けて「目視(認知)」しているが、ボールを受けてから「判断」して「実行」するまでの早さを見ていると、如何に「目視(認知)」が大事なのかが伝わって来る。

いつも通りに車を運転しているだけでも、いつの間にか運転がスムーズになっていくように、なでしこリーグ2部という道路を初めて走っているバニーズの選手達も、いつも通りに成長している!

あとはその成長を再開されるリーグ戦で結果に変えていくだけだ!

バニーズ京都SC 今後3試合の日程

≪プレナスなでしこリーグ2部≫ →全10チームによるホーム&アウェイの2回戦総当たり戦。優勝チームは1部自動昇格、2位はなでしこ1部9位チームとの入替戦。最下位は2部自動降格、9位はチャレンジリーグ(3部相当)2位チームとの入替戦。

第3節、4/28 (土)13:00静産磐田VSバニーズ@エコパ

第4節、5/3 (木) 15:00 S世田谷VSバニーズ@武蔵野

第5節、5/6 (日)13:00 バニーズVSニッパツ@亀岡陸上

筆者名:hirobrown

創設当初からのJリーグファンで、各種媒体に寄稿するサッカーライター。好きなクラブはアーセナル。宇佐美貴史やエジル、杉田亜未など絶滅危惧種となったファンタジスタを愛する。中学・高校時代にサッカー部に所属。中学時はトレセンに選出される。その後は競技者としては離れていたが、サッカー観戦は欠かさない 。趣味の音楽は演奏も好きだが、CD500枚ほど所持するコレクターでもある。

Twitter:@hirobrownmiki

© 株式会社ファッションニュース通信社