真意がかすむ

 「なるほど」という声もあり「こじつけ」とみる向きもあり、賛否が分かれたのを思い出す。すっかり記憶の底に埋もれていたが、2017年の「今年の漢字」は「北」だった▲ミサイルや核実験で「北」が世界を揺さぶったから、などと理由が挙げられていた。確かに「北」には「そむく」の意味がある。文字の形は2人が背を向け合って立つ姿を表すという。独裁の国が世界に背を向けた1年だったと取れば、なるほど、言い当てている▲「北」の文字とは反対の、2人が笑顔で向き合う姿は「融和ムード」を印象づけた。北朝鮮、韓国の首脳は並び立ち、朝鮮半島で平和を形作ろう、南北関係を発展させよう、と宣言した▲対立の歴史の幕を閉じる、その第一歩だとすれば画期的だが、この首脳会談にはもう一つ、重大な焦点があった。北朝鮮が非核化を具体的に言うのか、である▲「完全な非核化」とか「核のない朝鮮半島の実現」とか、目指すは「非核化」であることは表明から分かるとしても、それをどう進めるのかも、「北」が核を手放すかどうかも言っていない▲腹の探り合いは外交の常であるにせよ、「北」のトップは際立って手の内を明かさず、腹に一物(いちもつ)を蔵する人物らしい。米朝首脳会談で手のひらを開くのか、返すのか。「そむく」国の真意がかすむ。(徹)

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