「スポーツを様々なもののプラットホームに」米で進化するスタジアムの存在意義

ヤンキースの本拠地・ヤンキースタジアム【写真:Getty Images】

ヤンキース上席副社長ビューアー氏「球団が人々へ積極的に近づくこと」

 球場やアリーナなどは「競技を行うことだけの箱」という時代ではなくなった。箱を活かしてそこから多くのものを生産できるのだ。それらを積極的に提唱しているのがNPO法人グリーン・スポーツ・アライアンスである。

「ベーブルースの建てた家」と呼ばれるヤンキースタジアム。2009年から使用されている現在の新球場は、すべてが突出したものとなっている。旧球場に比べサイズが大きくなったばかりでなく、外観は古代コロシアムを想像させるような豪華さ。球場周辺やコンコースなど、数えきれないほどのビジョンが設置され、得られる情報量も半端ない。さまざまなショップやレストランも入り、球場という形容が陳腐にさえ思えるほどである。

 だが、ヤンキースがこの球場に求めているものは、ファンを満足させるだけではない。ここから様々なものを生産、発信し、広義な意味での社会貢献をおこなうことを考えている。そのヤンキースも加入しているのがNPO法人グリーン・スポーツ・アライアンス(以下GSA)だ。

 GSAはアメリカで10年にマイクロソフト社の創設者の1人、ポール・アレン氏によって創設された。スポーツを通じてサスティナビリティを社会に浸透させる「Greeting program」と銘打ったプログラムを推進している。サスティナビリティとは、持続性のこと。「競技だけがスポーツではない」という考えが根本。スポーツを様々なもののプラットホームに活用できるように取り組んでいる。

レッドソックス本拠地・フェンウェイパークには農園が存在

 創設8年ながら、プロ、アマを問わずチーム、リーグ、スタジアム・アリーナ等の運営管理団体、協賛企業など加盟団体は500以上ある。そして17年12月に日本法人としてグリーン・スポーツ・アライアンス・ジャパンが設立された。

 GSAジャパンのキックオフ・フォーラムに来日したヤンキース上席副社長ダグ・ビューアー氏はヤンキースの取り組みについて語ってくれた。

「スタジアムをハブにして球団が人々へ積極的に近づくことを考えている。できるだけ多くの人々を巻き込むこと。それがもちろんビジネスとしても大きいし、それ以上に社会にとっても良いことだと考えている」

「まず大事なのはスタジアムでの食の重要性。例えばレッドソックスなどは、球場内にフェンウェイ・ファームという農園を作ってそこで野菜や果物を生産。それを球場内での調理に活用したり、地域へ販売している。素材の確かさが分かるので、これなどは大いに参考にさせてもらっている」

「何年も前から問題になっているのはゴミの問題。多くの人々がスタジアムに集まるので大量なゴミが出てしまう。特に飲食物の容器には気をつけている。使い捨てやリサイクル可能なものを極力採用している」

LED照明を使うメリットは球場コスト削減だけではない

 ヤンキースのみでなく近年、米国のスポーツ界で重要視されているのが照明技術である。ランニングコストを抑えられ、点灯時間などの早いLED照明がトレンドになっている。今フォーラムには米国でのトップシェアを誇る照明の企業PLANLED社CEOジョン・ウォーイング氏も来場した。

「LED開発のきっかけとなったのはシアトルにいたから。シアトルは年間200日以上の雨季があり日照時間が短い。よって冬には鬱状態になる人が増えるというデータがある。体調など多くのものに影響があるのが目の機能。そこに注目してLEDを開発することにした」

「例えば現在、NBAデンバー・ナゲッツが使用するペプシセンターは、90%近く自然光と変わらない照明となっている。野球界でもシアトルのセーフコフィールドをスタートにアマで使用するものも含め、どんどん広がりをみせています」

 ヤンキースタジアムの照明もちろんLEDを使用。ビューアー氏は「シアトルの関係者にも多くの話を伺って採用しました。LEDにすることでのメリットは選手のパフォーマンス向上や電力消費量など球場コスト削減だけでない。スタンドのファンがプレーを見やすくなる。近年、視聴者が多くなったスマートフォンなどタブレットでも鮮明な画像を見られる。そして野球のみでなく、サッカーやフットボールなどの開催への対応もスムーズにできる。さまざまな利益をそれぞれが享受することが可能なんです」と話した。

 ZOZOマリンやヤフオクドームなど日本の球場も場内照明を次々とLED化している。現状、そこで語られるのは選手のパフォーマンスや演出面の充実が多い。これは日本人そのものが環境問題に対しての意識が極めて希薄だったこともあるだろう。しかし、その先にはもっと崇高なものが存在している。

「スポーツは人を動かす大きなもの」

 GSAジャパン代表理事の澤田陽樹氏は何度も繰り返した。今後、野球界のみならず日本スポーツ界では、GSAが掲げる「スポーツを様々なもののプラットホームに」というビジョンがもっと重要視されていくことだろう。

(Full-Count編集部)

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