セクハラの語感

 セクシュアルハラスメントという言葉が日本で使われるようになったのは1980年代末のことだ。その頃の新聞記事では(性的嫌がらせ)という括弧(かっこ)書きが必須だった記憶がある。言い換えがなければ読者に意味が通じない可能性があった▲性的な嫌がらせは以前から存在した。だが、当時の社会が新語を必要としたのは、男女雇用機会均等法を背景にして働く女性が増えたからだろう。女性が直面しがちな職場の問題を、セクハラという片仮名の略語が可視化した▲この言葉の定着に従って、多くの人がセクハラは許されないこと、社会からなくすべきこととして認識するようになった。いつの間にか括弧書きも要らなくなった▲だからこそ、2018年になって起こった財務省事務次官のセクハラ問題に憤りを覚える。よりによって日本のトップエリートがやってしまうとは▲セクハラ被害者への連帯を示す米国発のムーブメント「#MeToo」は、セクハラが今も根強く残る問題であることを浮き彫りにした。水面下で苦しむ人はまだまだいるのでは▲もしかすると、片仮名の略語に耳が慣れるにつれ、被害者の訴えが耳に引っかからなくなってしまう人がいるのかもしれない。時には「性的嫌がらせ」という日本語のごわごわした語感を呼び起こしてみる。(泉)

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