アラン・ドロンのキョウチクトウ

東京モーターショーに来場したアラン・ドロン(1983年)

 東京モーターショーがまだ晴海で開催されていた1983年秋、フランス人俳優のアラン・ドロンが会場に来たことがあった。マツダが「カペラ」という乗用車を大々的に売り出しイメージキャラクターがアラン・ドロンだったのだ。

 世界の大俳優が登場すると会場は大騒ぎになり、見物人の群れはマツダのブースに集中。その時に撮った写真は今でも我が家の家宝のように残っている。フィルムカメラで撮影した写真は、ピントピッタリで色落ちもせず、渋い顔で車に乗ろうとする姿が格好良い。

 当時、結婚したばかりで妻はアラン・ドロンの大ファン。しかし、モーターショーに用事で来られず、後々悔しがって写真を食い入るように見ていた。最近、この妻にアラン・ドロンのことで一つの約束をつくってしまった。

 東京モノレールの昭和島駅にある車両基地で年に数回「東京モノレールまつり」が開かれる。普段見られない基地や工場の内部を一般開放するとあり、ワクワクしながら昨年の秋に行われた「まつり」に行った。

 車両基地に着くと、基地の正式名称が「東京モノレール昭和島総合センター」であることを初めて知った。そのセンターの西口を入ってすぐ左側の植え込みにアラン・ドロンの“お手植えのキョウチクトウ”があるのを発見した。

(上)昭和島総合センター内のキョウチクトウ、(下)アラン・ドロンの昭和島訪問時の記録写真(1963年)

 モノレール開業前の1963年、来日した大俳優は翌年の東京五輪に向けて工事を急いでいた昭和島を訪問。記念の植樹をしたのだった。そのキョウチクトウは、55年を過ぎた今でも立派に残り、大きく育っている。

 植樹した木は会社の敷地内にあるため一般公開していない。妻に見せることが出来ないので内緒にしていたが、先日写真を見せたところ「次回のモノレールまつりに絶対連れて行け」と厳しい要求が出されてしまった。

 モーターショーで大俳優に会えなかった残念さはお手植えの木を見ることで解消されるだろうか。「東京モノレールまつり」の次の開催が待ち遠しい日々だ。

 ☆共同通信・齋藤義光

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