【F1アゼルバイジャンGP 無線レビュー】ハートレー、初ポイント獲得も笑顔はなし

 トロロッソ・ホンダにとって第4戦アゼルバイジャンGPは、中国GPに続きまたしても厳しい週末となった。

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ピエール・ガスリー(以下:GAS)「また同じハースだ! あり得ない! XXX! 一体コイツは何をやってるんだ!」

 2kmに及ぶストレートで、フリー走行であるにもかかわらずハースと交錯したガスリーは無線で叫んだ。FP1ではケビン・マグヌッセン、そしてFP2ではロマン・グロージャンと同じようにターン1の手前でサイドバイサイドになりロックアップ。

 ガスリー曰く、プッシュラップのハースに一度は譲ったが、次は自分がプッシュラップに入る番だから譲ってもらえると思ったらしいが、比較的アグレッシブなドライバー2人はそうは考えなかったらしい。

 前戦中国GPで不振に陥ったトロロッソだが、バクーではある程度のパフォーマンスを取り戻してきていた。金曜の時点ではマシンバランスに不満を抱えていたが、セットアップ変更をして臨んだFP3ではセッションを通してさらに微調整を行ない、マシンバランスはかなり改善できたようだった。

GAS「トラクションではアンダーステアで時々スナッピー。ブレーキングではリヤリミテッドになったからヘビーブレーキングにはこの方が良いけど、低速のブレーキングでは少しリヤがロック傾向だ」GAS「タイヤの状態を考えればマシンのフィーリングはかなりマシになったけど、まだリヤの安定感が問題だ。特に低速コーナーだ」トロロッソ(以下:STR)「タイヤがもうデグラデーション(性能劣化)しているんだ」GAS「トラフィックのせいでムチャクチャなラップだった。あとコンマ数秒は縮められたはずだ」

 FP3の最初にパワーステアリングに問題が発生し、中国のFP1では交換で時間をロスする場面もあっただけにヒヤリとしたが、ステアリグ上のボタンによるリセット操作で解決することができた。

GAS「ステアリングをチェックしてくれ。右コーナーではすごく軽くて左コーナーではすごく重いんだ」STR「OK、フェイル・レッド1、フェイル・レッド1だ」

 予選ではQ3進出は難しくとも、まずまずのポジションに行けると考えていた。しかし1回目のアタックはトラフィックと黄旗で上手く行かず、最後のアタックに入ったがブレンドン・ハートレーがターン13で右フロントをウォールにヒットしてしまい、これがきっかけで全てを失ってしまった。

ハートレー(以下:HAR)「フロントウイングかパンクか分からないけど何かダメージを負っている!」

 スローダウンしたハートレーの3秒後方にはガスリーが最後のアタックに入っていた。ここから最終セクターでハートレーのスリップストリームを僅かでも使えればタイムをゲインできると考えていたガスリーだったが、まさかターン15の手前で急にハートレーのマシンが視界に入ってくるとは思ってもみなかった。

 咄嗟の判断でインからすり抜けようとしたが、ハートリーも左に避けそうになったのでガスリーはアウト側へ。するとハートリーも右に避けようとしてしまい、ガスリーは行き場をなくして縁石に乗りロックアップしてコースオフ。2台ともにQ1敗退という最悪の結果になってしまった。

GAS「XXX! 一体何をやってるんだ! あり得ないよ、信じられない! 僕は320km/hで走っているのに、彼はそこで止まっていやがったんだ!」STR「彼はパンクしていたんだ、パンクだ。彼にはどうすることもできなかったんだ」HAR「僕は横にどいてGASを行かせようとしたんだ、本当にごめん」

 このインシデントにより、決勝は後方グリッドからのスタートとなってしまった。

 1周目の混乱を上手く縫って11番手に浮上したガスリーだったが、混雑の中で軽い接触もありパンクの不安もあった。しかし幸いにして事なきを得た。

GAS「タイヤをチェックしてくれ、タイヤだ!」

 セーフティカーを挟んでレースが再開されると、一時はルノーの1台をかわして7番手にまで浮上してみせた。本来のパフォーマンスさえ発揮できていれば、前に追い付くことは難しくとも抑え切ることはできそうだった。

 しかしストレートでスピードが伸びずあっという間に次々に交わされて12番手まで後退。14番手にいたハートレーも、セルジオ・ペレス、フェルナンド・アロンソ、マーカス・エリクソンと次々と抜かれていった。

HAR「GPSにトラブルを抱えていると思う。DRSとエネルギーマネジメントの関係が完全にムチャクチャだ!」

 ハートレーはGPSデータの誤作動によってマシンがどこを走っているか判別できなくなり、ERSをどこで充電しどこでデプロイメントを効かせるかというエネルギーマネジメントがおかしくなったと感じていた。しかしそれはGPSデータの問題ではなく、エネルギーマネジメントの配分セッティングそのものが間違っていたのだ。

 DRSゾーンで常にDRSが使える予選とは異なり、決勝では前走車の1秒以内にいなければ使うことができない。そしてドライバーはバトルの中でデプロイを切らしたくない場面ではオーバーテイクボタンを押してエネルギーを使う。

 しかし予選とは違い決勝では1周あたり2MJしかバッテリーからの放出はできない。こうした様々なシチュエーションの想定が不充分で、充電と放出のバランスが狂ってしまったのだ。

 予選で1周あたり4MJの放出とDRSを使えばフェラーリやウイリアムズと同等のスピードが出せる力があったトロロッソだが、決勝ではこうした理由からドライバーがGPSのトラブルを疑うほどストレートで苦戦を強いられ続けた。

 最後はガスリーが再びマグヌッセンと交錯してポイント獲得のチャンスを失い、ハートレーは僅か0.482秒差でエリクソンを抑え切って辛くも10位で初入賞を果たしたが、2人に笑顔はなかった。その事実がバクーの決勝レースでの厳しさを物語っていた。

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