『サブカルの想像力は資本主義を超えるか』大澤真幸著 考えることの興奮と快楽

 ヒットしたアニメやドラマから現代社会を読み解こうとするとき、問われるのは、どれだけ説得力があるか、どれだけ深く時代の実相を捉えているか、どれだけ遠くまで議論を敷衍できるかだ。この3点において本書は卓越した成果を示した。

 もとは大学での講義録。今の若者にとって「私」と「世界」のつながりを腑に落ちる形で示すのは学問よりもサブカルチャーであり、フィクションに込められた現実への想像力が21世紀の世界像を示す手がかりを与えてくれるのではないか。そうした問題意識を起点に考察はダイナミックに時空を往還する。

 映画「シン・ゴジラ」を日本の対米従属を明言した作品として位置づけ、小説「砂の器」、プロレス力道山戦を参照しながら、敗戦を深層で否認してきた戦後日本の病弊を指摘する。漫画「DEATH NOTE」と小説「OUT」に善と悪が極限で転換する現代的事象を見出し、六つ子のニートが主人公のアニメ「おそ松さん」を通し、資本主義への最大の抵抗として「何もしないこと」の意味を考える。アニメ映画「君の名は。」「この世界の片隅に」を素材に現代の恋愛の不可能性を探る――。

 カントやマルクス、ニーチェらの知見が縦横無尽に引用され、オウム真理教事件や福島の原発事故、米国大統領選挙が有機的に関連付けられる。

 めまいさえ覚えるアクロバティックな論理展開に圧倒された。講義を受けた学生たちは知ること、考えること、想像することの快楽と興奮を味わったに違いない。

(KADOKAWA 1700円+税)=片岡義博

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