ナガサキアメンボ

 大正の頃、北原白秋が「五十音」という詩を書いている。例えば放送部とか演劇部とか、部活動で滑舌の練習に励む人、励んだ人にはおなじみかもしれない。「あ行」は〈水馬(あめんぼ)赤いな、ア、イ、ウ、エ、オ。浮藻(うきも)に小蝦(こえび)もおよいでる〉。同じ調子で「わ行」まで続く▲詩には「水馬」とあるが、その名は体から甘い匂いを発することから「飴(あめ)ん坊」「飴ん棒」に由来するともいう。脚先だけを水面に付けてスーッと滑るとか、いい香りを発するとか、全く不思議な生き物である▲「飴」にちなむ名の上に「長崎」が冠せられ、何だか胸躍る。県立長崎西高の生物部の3年生3人がアメンボの新種を発見した。和名を「ナガサキアメンボ」と付けた▲実に60年ぶりの新種発見という。淡水にすむ細長い「ナミアメンボ」にそっくりなのが大村湾の海面に群れているのを見つけた。海にいるのは形が丸っこいのに、これは何? 疑問を持ったのがきっかけらしい▲大村湾の中でも淡水が混じる所で繁殖する特性などを突き止めた。筆者が分かったように言うのも何だけど、こつこつと粘り強く、一点を見つめるように、細やかな観察と研究を重ねたのは間違いない。すごい▲見つけてくれてありがとう。飴ん坊は感謝し、歓喜していることだろう。発見が喜びと誇りの香気を放つ。(徹)

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