長崎・天草の潜伏キリシタン遺産 世界遺産へ 12資産を登録勧告

 政府は4日、国連教育科学文化機関(ユネスコ)諮問機関の国際記念物遺跡会議(イコモス)が、「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」(長崎県、熊本県の12資産)を世界文化遺産に登録するよう勧告したと発表した。6月24日から7月4日に中東のバーレーンであるユネスコ世界遺産委員会で、勧告通りに登録される可能性が極めて高くなった。
 正式決定すれば、長崎県では端島(軍艦島)などで構成する「明治日本の産業革命遺産」に次いで2件目の世界遺産となる。一方、政府が世界自然遺産に推薦していた「奄美大島、徳之島、沖縄島北部および西表島」(鹿児島、沖縄)は、諮問機関の国際自然保護連合(IUCN)が、推薦内容の抜本見直しを求める「登録延期」を勧告した。
 潜伏キリシタン遺産は、日本でキリスト教が禁じられた17~19世紀に、長崎県内と熊本県天草市でひそかに信仰を続けた「潜伏キリシタン」の文化的伝統を物語る遺産。江戸幕府が禁教政策を強化するきっかけになった「島原・天草一揆」の戦場になった「原城跡」(長崎県南島原市)をはじめ、禁教期のキリシタン集落、幕末に潜伏キリシタンと宣教師が出会った国宝の「大浦天主堂」(長崎県長崎市)などで構成する。
 文化庁によると、勧告は「顕著な普遍的価値を示すために必要な全ての資産が含まれている」と評価。遺産が法律に基づいて完全に保護され、高い真実性があるとした。ただ、原城跡については、漁業施設や中学校がある南西部を資産範囲から除くように指摘。「奈留島の江上集落」(長崎県五島市)については、西側の陸域を緩衝地帯に含めるように求めた。
 その上で、久賀島(長崎県五島市)や野崎島(長崎県北松小値賀町)などの既に消滅した集落、教会、墓地などの痕跡について記録資料を作成することや、保全活動の周知、収容力を考慮した観光管理の検討などを勧告した。
 4日未明に記者会見した文化庁の大西啓介記念物課長は、保存管理の指摘について「想定外はない」とし、「非常に安堵(あんど)した。正式決定まで気を抜かず、万全を期したい」と話した。
 登録を巡っては、政府が2015年1月、「長崎の教会群とキリスト教関連遺産」を推薦したが、イコモスから禁教期に焦点を当てるように促されて取り下げた。長崎県は国内で初めてイコモスの正式な支援を受けて推薦書を作成。内容を見直した潜伏キリシタン遺産として政府が昨年2月にあらためて推薦していた。
 登録が決まれば、日本の世界遺産は文化遺産18件、自然遺産4件の計22件となる。

 ◎解説/顕著な価値 助言で明確に

 イコモスの助言を受けながら価値や保全策を見定めていく新制度が功を奏し、潜伏キリシタン遺産が待望の登録勧告を得た。
 日本におけるキリスト教の独自性は、2世紀以上にわたる禁教と潜伏にある。キリシタン遺産の前身だった「長崎の教会群」は潜伏期を証明する資産が少なく、明治期の信仰解禁後に建った教会建築中心の構成という問題があった。
 しかし、イコモスが「禁教期に焦点を当てるべきだ」と指摘したことで、世界遺産に必要な「顕著な普遍的価値」の軸がしっかり定まり、イコモスが重要視する価値と各構成資産の結び付きも明確になった。
 イコモスは当初、教会建築を問題視していた。だが、長崎県や文化庁との話し合いの中で姿勢が軟化。教会を含む集落という形で教会群の資産をほぼ踏襲することを許容した。結果として新制度は成功したと言える。
 イコモスが新制度を始めた背景には、イコモスの審査に不満を抱いた推薦国が政治力を用い、世界遺産委員会で勧告を覆している現状がある。イコモスは潜伏キリシタン遺産を新制度のテスト事案と位置付けており、結果を出したかったという事情も透けて見える

イコモスの「登録勧告」を受け、多くの観光客でにぎわう大浦天主堂=長崎県長崎市南山手町
長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産(12件)

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