“なでしこジャパン候補”石井咲希にインタビュー!「現代型CB」の素顔とは

昨年3月に女子日本代表=なでしこジャパンに初選出されたバニーズ京都SCのDF石井咲希。

3部相当のプレナスチャレンジリーグ(当時)に所属していた選手がフル代表に招集されるのは異例中の異例だった。未だ代表デビューは果たしていないが、バニーズのプレナスなでしこリーグ2部昇格に大きく貢献した石井は、今年2月のなでしこジャパン候補合宿にも招集されている。

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独自のスタイルを貫くバニーズ京都SCの守備の要にして、日本代表候補のDF石井咲希とは?

取材当日の早朝には、なでしこジャパンがアジアカップで連覇を達成した。それを見て抱く代表への想いとは…。

インタビューはもちろん、バニーズの千本哲也監督の言葉や相手選手からの声も交えてお届けします!(取材日:2018年4月21日)

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「バニーズのパスサッカーに魅力を感じて」

――お疲れ様です。石井選手はバニーズ加入3年目になります。なでしこリーグ1部の強豪・浦和レッドダイヤモンズレディースに下部組織時代から在籍し、ユース年代の代表経験も豊富だった石井選手が、なぜ2つもカテゴリーを下げてバニーズへの加入を決断されたのでしょうか?

石井咲希選手(以下省略):キッカケは越智さん(※)からのお誘いでした。そして実際にバニーズのサッカーを観て、そのパスサッカーに魅力を感じて決断しました。

(※越智健一郎:バニーズ京都SCのゼネラルマネージャー。「京都から、日本をひっくり返す」ことを信念に、GM自らスカウティングビデオも回しに全国を駆け巡る)

――前節は見事に愛媛FCレディース相手に2-0と完封勝利を挙げましたが、石井選手は普段のセンターバックではなく、右サイドバックで先発されましたよね?

はい。先発は右サイドバックでスタートして、途中からセンターバックに入りました。

――KBS京都さんのスポーツ番組『京スポ』の中でも、「今年はサイドバックでのプレーが多くなる」と話されていました。また、試合途中から右に入ることも多いですが、これは攻撃面を期待されているのでしょうか?

今年に入ってから練習でもよくサイドバックを任されているのですが、千本監督からもよく『どんどん上がって良いよ!』と言われています。ですので、サイドバックに入るときは攻撃面を意識しています。

――石井選手はもともとユース年代の代表チームも含めて右サイドバックの選手だったと思います。それがバニーズに加入されてからはセンターバックにコンバートされました。

そうですね。実際バニーズに来た時も「サイドバックのポジションで」と言われていたのですが、加入当初からセンターバックをやっています。本職のセンターバックの選手が少なかったという部分もあったと思います。

「どこかで見てくれている」という意識で

――ちなみに今年2月の代表候補合宿でのポジションは?

右サイドバックでした。

――やっぱりバニーズと代表チーム含めた他のチームとでは、センターバックに求められるモノが違うのでしょうか?

違うと思います。パスサッカーを志向しているのでポジショニングが特に違うと思います。

守備面でもDFラインが高いですし、中に入る時はセンターバックが中心になってラインコントロールをしなければいけないので、ラインの押し上げと全体のコンパクトさをいつも敏感に意識しています。

――昨年3月に初めてフル代表に招集されてから1年が経過しました。今朝、なでしこジャパンはアジアカップ連覇を達成しましたが、代表へはどんな想いを抱いていますか?

バニーズというチームで活躍することが最優先ですが、その中で自分の持ち味であるスピードやロングフィードという武器を出し続けていきたいです。

『どこかで観てもらっている』という意識があるので、代表への想いも持ち続けて取り組んでいます。

――今季からバニーズには加戸由佳選手と野間文美加選手という実績抜群のDFが加入しました。そういう部分では、ポジション争いも含めて普段の練習から刺激を受ける部分もあるのでは?

加戸さんは代表経験もありますし、野間さんもなでしこリーグ1部での経験も豊富です。自分に持っていない部分もあります。

でも自分も2人にない武器を持っているとも思っています。そんな環境なので、普段の練習から負けないように自分を高めていきたいと思っています。

――先日ニッパツ横浜FCシーガルズの元日本代表FW大滝麻未選手(下記写真)とお話する機会があったのですが、石井選手にとっては浦和L時代のチームメートですね。大滝選手とのマッチアップも含めて、5月6日に京都府亀岡市で開催されるシーガルズ戦への意気込みは。

麻未さんはすごく背が高いので(大滝は172cm、石井は164cm)、高さの部分では勝てないわけではないですけど、自分のスピードと気持ちで止めたいと思います!そして、麻未さんを止めて勝ちたいと思います!

――本日は試合直後にも関わらず、ありがとうございました。

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【プロフィール】 名前:石井 咲希(いしい さき)

ニックネーム:いっしー

生年月日:1995 年 7 月 3 日(22 歳)

出身:千葉県

ポジション:DF

なでしこリーグ通算(1・2 部):55 試合出場 0 得点日本代表国際主要大会出場歴:U17W 杯(2012 年)

ちょっぴり自慢したいこと: 焼肉を焼くのがうまい!

SBからコンバートされた現代型CB

石井がなでしこジャパンへ選出された際、女子日本代表の高倉麻子監督は、その選出理由について、「スピード」を挙げていた。

バニーズと対戦したASハリマアルビオンのFW千葉園子は、石井とはU-23女子日本代表時代のチームメイトだ。そして石井より先に高倉監督の下で日本代表デビューを果たしている。

千葉はスピードを武器の1つとするアタッカーだが、石井について「マッチアップするのは本当にシンドイですし、とにかく足が速すぎます!私ですか?比べ物にならないぐらい速いです」と言う。

昨年、なでしこジャパンでは不動の左サイドバック鮫島彩(INAC神戸レオネッサ)がセンターバックにコンバートされる機会が多かった。女子日本代表の主将を務めるDF熊谷紗希(オリンピック・リヨン/フランス)が合流できない日程だったのも確かだが、現代サッカーの流れから考えれば妥当な選択だろう。

高い位置からボールを奪いに前に出るプレッシング戦術が進化し、DFラインも高く設定されるようになった。

チーム全体をコンパクトな陣形にしてラインコントロールを密にする必要があるため、センターバックには運動量やスピードが求められるようになっているからだ。

逆に高いDFラインの裏を破るため、現代サッカーのアタッカー達にはスピードが重視されるようにもなった。トレーニングの発達によって敏捷性にも優れ、“小回り”が利くようにもなっている。

それに対応するセンターバックにもスピードが求められるのは当然の成り行きである。

パスサッカーを支えるバニーズ流DF

そして、たとえ“格上”が相手でもパスサッカーを貫くバニーズには、4バックに高い技術を持つ“繋げるDF”が揃っている。それも、最前線でFWが抜け出している際には4人全員がシンプルにそれを突くロングフィードを蹴れる。

想像して欲しい。ロングフィードを蹴る際、センターバックの石井や山本裕美、右サイドバックの草野詩帆、左サイドバックの酒井望らは遠くの3トップを見ながらボールを運ぶ。そして、その遠くを見ながら間接視野(顔を上げながらピントとは違う視野の左下や右下に映る)に入って来る味方へショートパスを繋ぐ。

「遠くを見るから近くも見える」が、「近くを見ていても遠くは見えない」からだ。

その上で千本監督(上記写真)は話す。

「ウチはチーム全体で相手陣内に押し込んだ際には、MF3人を全員攻撃に専念させたいという考えがあります。ただ、それだとセンターバックの前を誰がカバーするのか?という問題が出てきます。

そんな時にはボールサイドと反対のサイドバックに中央へ絞るようにポジショニングをしています。そこは男子と違ってキック力に限界があるので、カウンターを食らっても1発では行かれないだろう」

「ゲームメイク能力も必要で、極論すればサイドバックとボランチは一緒かもしれません」というのが“バニーズ流” だ。

そして、“バニーズ流のセンターバック”とは?それはボールの持ち運びにある。

緻密にスペースやマークのズレを見ながら「良い状況をパスの受け手に提供していくサッカー」が理想で、「1つずつマークを剥がしていく作業をやり続けていく中で、1つ隣へのショートパスだけでは読まれるので、それを裏返すためのロングフィードを蹴れるのも条件になる」という。

「サッカーは寸足らずの毛布だ」とは、1950年~1960年代にブラジル代表で活躍した司令塔ジジの言葉だ。

頭から毛布を被れば足が出るし、足先を暖めても上半身が寒くなる。攻撃も守備も完璧にしたいけれど、どちらかに軸足を置かないといけない、という喩えである。細かく言えば「どこで数的有利を作るか?どこで数的同数や不利を許容するのか?」とも言える。

バニーズで数的同数をOKにしてくれる存在は、石井咲希なのだろう。

彼女のスピードがあってこそ、バニーズは攻撃的なパスサッカーを選択できる。サッカーでは「優秀なFWがいるから攻撃的なチームを作る」ではなく、むしろ逆。個人能力の高い選手がいることで、そこに数的同数や数的不利を任せられる考えの方が圧倒的に多い。その方が合理的だからだ。

リーグ戦再開へ向けて、千本監督は言う。

「もちろん、全部勝ちたいです!楽に勝てる相手などいないですし、今日(ハリマ相手に0-2の敗戦) のように試合全体を通して概ね上手く主導権を握っても、大事なところで失点して負けてしまうこともあるかもしれません。

でも、それでブレるつもりもないですし、今のサッカーを続けながらどうやって結果を出していくのか?を積み上げるだけです。そういう意味では相手が格上ばかりで強いのは良いことだと思います。苦労して強くなっていく過程を、少しずつ積み上げて成長していく姿を見ていただきたいです。応援よろしくお願いします!」

GW最終日は横浜FCシーガルズと対戦、石井 VS 大滝のマッチアップにも注目!

そんなバニーズ京都SCはゴールデンウィーク最終日となる5月6日、京都府亀岡市の亀岡運動公園陸上競技場にニッパツ横浜FCシーガルズを迎える。

「石井のスピード VS 大滝の高さ」というマッチアップや、バニーズのDFの選手たちがパスを繋ぎながら攻撃を組み立てる姿にも注目だ!

(写真提供:バニーズ京都SC、ニッパツ横浜FCシーガルズ)

筆者名:hirobrown

創設当初からのJリーグファンで、各種媒体に寄稿するサッカーライター。好きなクラブはアーセナル。宇佐美貴史やエジル、杉田亜未など絶滅危惧種となったファンタジスタを愛する。中学・高校時代にサッカー部に所属。中学時はトレセンに選出される。その後は競技者としては離れていたが、サッカー観戦は欠かさない 。趣味の音楽は演奏も好きだが、CD500枚ほど所持するコレクターでもある。

Twitter:@hirobrownmiki

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