守るのは誰か

 大橋を渡っていると、右手の沖に「殉教の島」が見えてくる-はずだった。なのに激しい雨が車を打ち付けるわ、運転に気を取られるわ。水色の鮮やかさが目を引く生月大橋を脇目も振らず通過した▲大型連休の最終日、潜伏キリシタン遺産に含まれる生月島沖の「中江ノ島」は悲しいかな、じっくり見られず。まあ、かくれキリシタンの地、生月の山田地区を訪ねただけでも願いの一つがかなったじゃないか。そう自分に言い聞かせる▲白状すれば、はなから潜伏キリシタンに引かれたというよりも、まずは教会に見とれ、歴史に心引かれ、信徒の苦難の道を思う-そうやって自分なりに、少しずつ、世界遺産候補を知っていったのを思い出す▲きっかけは何年か前、新上五島の頭ケ島天主堂に、建築の素人ながらも見とれた時だった。天井の曲線美と装飾の花模様にほれぼれとした覚えがある▲世界遺産登録を勧告された日、構成資産「頭ケ島の集落」の信徒という80歳の方が、天主堂を数少ない人で維持管理する難しさを紙面で語っておられた。「そろそろ限界」だと▲曲がりくねった道を経て、やっと得た登録勧告を心から喜びながらも、資産を守り、歴史を守るのは、ある集落、ある信徒の方に限らず私たち県民なのだと、気持ちを新たにする時なのだと、改めて思う。(徹)

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