【MLB】シアトル地元紙の記者がイチローの“決断”に敬意「尊厳を完全に保ったまま」

マリナーズ・イチロー【写真:Getty Images】

マリナーズでのキャリアを振り返るコラム「イチローの素晴らしい遺産」

 マリナーズは3日(日本時間4日)にイチロー外野手の会長付特別補佐就任を発表した。今季はもう試合に出場はしないが、来季以降に復帰の可能性を残す異例の契約。米メディアからは「事実上の引退」と伝える記事も出ているが、地元紙「シアトル・タイムズ」で長年、マリナーズ担当を務めるラリー・ストーン記者は「彼はまだ引退したわけではないが、尊厳を完全に保ったまま去った」と、その決断に敬意を表している。

 イチローは2001年にメジャーデビューを飾ると、1年目に首位打者や盗塁王に輝き、史上2人目となる新人王&MVPダブル受賞を達成。メジャー記録となるシーズン116勝に大きく貢献した。2012年途中にヤンキースに移籍するまで、10年連続200安打&ゴールドグラブ賞&オールスター出場など数々の偉業を達成。背番号51は、殿堂入り左腕のランディ・ジョンソンと連名で永久欠番になると見られている。

 ストーン氏は「正しい去り方:シアトルでのイチローの素晴らしい遺産について私が忘れられないこと」とタイトルがつけられた“惜別コラム”の中で「記憶に残る道のりだった。そのすべてがスムーズだったわけではない。チームメートやファンの一部はイチローの野球や性格の様々な面に反対した。しかし、イチローを見ることは魅力的以外の何ものでもなかった」と言及。そして、「イチローのキャリアを振り返ると、2001年にゆっくりと頭角を現した時のことを思い出す。まさに驚嘆だった。それ以前には見たことのなかった野球の現象を目撃していた」と、パワーヒッター全盛だったメジャーにスピードという新たな風を吹き込ませた当時のことを回顧している。

 1年目の伝説のレーザービーム送球や、オールスターでランディ・ジョンソンから放った内野安打について振り返り、「イチローが活躍して球界を混乱させる才能があることがはっきりした」と指摘。さらに、メジャー記録を更新した2004年のシーズン262安打については「神聖な記録の1つを破るのを見た興奮を覚えている」として、2009年のオールスターでのランニングホームランなどにも触れている。

 今年、6シーズンぶりにマリナーズに復帰したイチロー。結果が出ない中でシアトルメディアからは厳しい論調の記事も多く出たが、ストーン記者は「全体を振り返ってみると、116勝の夢のシーズンから始まった18年間というのは、野球の素晴らしさと事象を目の当たりにできる特権に満ちたものであった」と“感謝”。会長付特別補佐に就任し、来季以降に復帰の可能性を残すという異例の契約については「間違いを見つけるのは難しい」と前向きに受け止めている。

「マリナーズの選手はイチローを愛すべき伯父のように尊敬している」

 イチローが東京ドームで開催される来季の開幕シリーズに出場する可能性は十分にあり、本当の「引退」がいつになるかは、誰にも分からない。ただ、ストーン記者は「現実的になってみよう」として、「イチローのメジャーリーグのキャリアはどう見ても、水曜日に走者2人をおいた状況で三振したときに終わった」と指摘。その上で「イチローのキャリアはこの段階で終わる時だった。そして、私はイチロー自身がその事実を理解しているだけでなく、受け入れ、尊重さえしていることが嬉しい」と綴る。

 少なくとも、イチローがマリナーズの選手としてキャリアを終えるという決断を下したことは事実だ。3月29日(同30日)の今季開幕戦でシアトルのファンから大歓声を浴びた時には「こんな風にしてもらったら、もう、この先はシアトルを離れたくないなという気持ちになりますよね」と話していたが、まさにその言葉通りの“結末”となり、強い“マリナーズ愛”を貫く形となった。

 ストーン記者は「イチローはよくスコット・サービス監督にマリナーズの選手でいられることがどれほど幸せかと話していた。マリナーズの選手はイチローを愛すべき伯父のように尊敬し、ジェリー・ディポトGMが表現したダライ・ラマであるかのように野球の知恵を求めた」と、同僚との強い絆についても言及。そして、ディポトGMが「みんなイチローが山の頂上から考えを述べるのを待っているようだった」と話していたことも記している。

 記事では、44歳のレジェンドが若い選手に与えるものは多いということに触れ、「イチローはそれを尊重しており、それが事実上有益であることは確かだ」とも指摘。そして、「彼はまだ引退したわけではないが、尊厳を完全に保ったまま去った」と締めくくっている。

 メジャー史に名を残す偉大な選手への敬意溢れる“惜別コラム”。イチローがシアトルで残してきたもの、そして、これからもたらすものの大きさを示す内容となっている。

(Full-Count編集部)

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