増える「献体」登録 長崎大医学部 25年で倍近くに 「終活」意識の高まり…背景 家族「医療に恩返し」

 自分の遺体を解剖実習のために提供する「献体」の登録者が増えている。背景には、最期まで充実した生を送りたいという「終活」意識の高まり、死生観の変化、核家族化などの要因がある。長崎の事情はどうなのか。
 長崎大医学部にある篤志献体団体「余光(よこう)会」によると、献体登録した累計会員数は2759人。そのうちこれまでに986人が実際に解剖された。現在の生存会員は1227人(今年3月末現在)。会員数は年々増え続けていて、25年間で倍近くになった。
 大学によっては、遺体の保管庫がいっぱいになったり、遺体の防腐処置に当たる職員が不足したりして、献体団体への入会制限を設けるところも増えている。余光会では、献体登録に際して「同意者」となる子どもの年齢を考慮し、数年前から入会者を50歳以上に限定している。
 余光会の生存会員の約半数は80歳以上。90歳以上も15%いる。「『最後はきれいな体で献体したい』と健康に気を配るようになり、結果的に長生きされる会員が多いようです」と長崎大肉眼解剖学分野の佐伯和信講師。
 長崎大では遺体を防腐処置した後、格納庫に保管。毎年4~7月、医学部・歯学部2年生による実習で解剖される。死後、解剖終了までの期間は平均2~3年。その間、大学の霊安室で遺体と対面し、「最後のお別れ」をする遺族も少なくないという。
 解剖後、大学側が火葬し遺族に返骨する。中には引き取りを希望しない遺族もいる。その場合、大学が管理する納骨堂に納められる。関係者は「最近、家族に迷惑を掛けたくないとの思いで献体を考える人もいる。献体の趣旨はあくまで『医学への貢献』なのだが…」と困惑する。
 県内の男性(74)は、5年前に妻=当時(67)=を亡くした。妻は生前、献体登録していて死後、解剖された。男性は「夫婦とも病気がちで医療のお世話になった。妻は恩返しをしたんだなと思います」としみじみと話す。
 長崎大医学部の学生らの解剖実習感想文で、ある学生はこう書いていた。「(解剖後の納棺時)生前に着ていたであろうスーツを一緒に棺に入れる際、ほのかに匂いがした。その匂いを嗅いだとき、この方も自分と同じ一人の人間で、皆と同じように生きていたのだとあらためて実感した。私たちができることは、その遺志を汲んで立派な医師になることだと思う」
 「屍(し)は活ける師なり」。解剖実習で指標とされる言葉。時代が移ろい、献体を取り巻く状況は変わっても、その精神は今も昔も変わらない。

解剖後、引き取り手がない遺骨を収容する納骨堂=長崎市内の寺院

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