
なんと生まれて初めての神戸。
自分の主演映画が元町映画館で上映されるとの知らせを受け、黙って見過ごすわけにもいかず神戸、神戸と調べてみると、往復航空券とホテル付きのツアーがあるではないか。
ん? 航空券? 神戸に空港? あったっけ?
調べると神戸空港は確かにあった。しかも三ノ宮までとても近い距離に。
早速申し込んで、緑の風吹くある日、神戸空港へ向かった。
私にとって神戸といえば、ウルトラセブン『ウルトラ警備隊西へ』(14話、15話1968年放送)の宇宙ロボット・キングジョーが沈んだ神戸港であり、日活映画『紅の流れ星』(1967年舛田利雄監督)の浅丘ルリ子と渡哲也が歩いた神戸であり、尊敬する黒沢清監督の故郷であり、映画評論家の淀川長治氏の出身地なのだから、なんとしても神戸でロケ地巡りをしたい。
ロケ地探偵・ロケ地小五郎子の血も騒ぐのであった。
羽田から神戸空港へは1時間15分。
旅客機で神戸空港上空を飛ぶ私の気分は、ウルトラホークで西へ向かうまさに『ウルトラ警備隊西へ』の気分だった。

赤く見える一画に鉱石船が停泊している。あれは製鉄所だろうか。
ちょうど加古郡播磨付近で南針し、加古川製鉄所あたりで180度左に大きく旋回すると東に進路をとり、まもなく明石大橋を越え、人工島・神戸空港に着陸する。
神戸空港ではウルトラ警備隊ならぬ「のら猫警備隊」S隊員が出迎えてくれた。
ウルトラ警備隊のポインター号でシークレットハイウェー・ルート9をゆく気分で、ポートアイランドを抜け神戸大橋を渡ると、オレンジ色の夕陽に照らされた神戸港と街並みが広がった。
「あの街のどこかにペダン星人が潜んでいるのか……」
ウルトラ警備隊の台詞じゃないが、第15話のラストカットのような燃える夕陽に染まる神戸港をみつめながら呟く私。
ところで「キングジョーって、なあに?」という方にはまず、ウルトラセブンの14話と15話を見ることをオススメする。通常は1話完結なのに『ウルトラ警備隊西へ』と題して2話分で放送されたスペシャル回だ。
策略宇宙人ペダン星人のスーパーロボット・キングジョーはそこに登場するウルトラセブンの敵怪獣の中でも最強の合体ロボットで、世界初の分離型合体ロボかもしれない。
合体ロボといえば、のちのアニメによる『ゲッターロボ』や『コンバトラーV』が懐かしいという人もいるだろうが、合体ロボの元祖はキングジョーだと私は思っている。
パーツは頭と腕、胸、腰、足と四つに分かれ、浸水飛来自在である。しかもタフで危機が迫るとゆっくり(ここが円谷特撮らしいテンポ!)分解してウワァシウワァシと奇妙な作動音を立てて逃げてゆくのだ。
脚本家の金城哲夫氏のアイデアは、バラバラの無数のパーツが一つになるというものだったそうだが、無数だと当時の特撮技術では合体に時間がかかる。
CG合成ならあっという間だろうが、当時の円谷特撮のテンポはそうはいかない。でもそのテンポがシュールでかっこいい。
しかもキングジョーはセブンを攻撃しまくり「危うしセブン!」というナレーションで終わる14話。最強ロボの攻撃に弟とテレビの前で放心した記憶がある。これには初代ウルトラマンがゼットンにやられてしまうくらいの衝撃を覚えた。

そしてイマイ社のサンダーバード基地など、プラモデルの箱絵を描いていた小松崎茂先生チックに描かれたブルマァク社のプラモデルの箱絵のキングジョーやソフビ人形などキングジョーのかっこよさに魅せられまくりの姉と弟。
だいたいキングジョーという響きがかっこいい。
劇中ではペダン星のスーパーロボットと呼ばれているだけで、キングジョーという呼称は金城哲夫氏の父親のあだ名「KING JOE」からとったもので、後付けの名前だった。
とにかく歴代のウルトラ怪獣の中でもお気に入りだったので、神戸といえば、キングジョー。港にはキングジョー像がそびえ立っていているのかもしれないし、神戸銘菓風月堂から分割できるキングジョー菓子などが神戸土産で売られていたりするかもと、果てなき妄想族の出力全開。
さて、早速ロケ地巡り開始。
まずは『紅の流れ星』で浅丘ルリ子と渡哲也が歩いた南京町から元町へ。
無類の中華街好きな私だが、神戸の南京町に来るのも初めて。
まるで映画のセットのような風情が気に入った。

1967年に撮影された『ウルトラ警備隊西へ』と『紅の流れ星』。
50年以上も前のロケ地巡りをしていると、街の移り変わりがわかって面白いとも言えるが、変わりすぎていてめまいがしてくる。
それにしても港町神戸はいい街だ。一発で気に入った。
ポートタワーを眺めながら、メリケンパーク越しに神戸の港を臨む。
1963年に中突堤(埠頭)にできたポートタワー。
そこからメリケン波止場までが埋め立てられてできたメリケンパーク。
ポートアイランドは81年の神戸ポートアイランド博覧会跡地だし、空港島ができたのは2006年だ。本当に時の流れを感じずにはいられない。

『紅の流れ星』が好きなのは、1967年頃の神戸港がまるで香港の水上生活者が溜まる港の雰囲気をも醸し出していたからだった。
実際、中突堤の東側あたりには「艀(はしけ)溜り」がたくさんできていたらしい。
艀は港湾内に停泊する平底の船で、荷物を積んだり、生活の場として存在していた。自走できない船なので、曳舟(ひきふね)に引っ張ってもらって荷物を運搬。昭和40年代のピーク時には2000艘以上もあった艀溜まり。
だがコンテナ化によって艀の需要も減り、一気に姿を消した。
浅丘ルリ子と渡哲也が歩いた摩耶(まや)大橋を歩く。
1966年にできた橋だが、現在は並行して港湾幹線道路の第二摩耶大橋が架かる。現在でも彼らが歩いた摩耶大橋だけが歩行できるのだ。

橋への階段を探さなければならないのだが、その階段もスルスルと引き寄せられるように見つけてしまい、劇中、渡哲也が電話した場所まで突き止めてしまう手腕。

『紅の流れ星』は日活無国籍アクションが消える間際に作られた作品だが、当時の港町神戸の風景を色濃く焼き付けた名作だとあらためて感じられた。
しかもセブン然り、どちらも当時できたばかりの場所が多い。
『勝手にしやがれ』(1960年・ゴダール監督)のミッシェル・ポワカール(ジャン・ポール・ベルモンド)よろしく、白いスーツでキメた若き渡哲也が、浅丘ルリ子と一緒にマニラへ高飛びしようとしていたのにあっさり裏切られ、彼女が密告した刑事・藤竜也に撃たれて死んでしまう。
「あばよ! いつか好きな男が現れたらすぐに寝るんだな」と言い残して……。
その場面を撮った第3突堤が、場所的にはおそらくここだろうと思う埠頭までたどり着けただけでももう感無量だというのに、ロケ地巡りはまだ続く。
さて、さらに摩耶埠頭を彷徨う“のら猫警備隊”。
キングジョーを倒したライトンR30爆弾を発射させた突堤を探す。
しかし、その場所へはどうしてもたどり着けない。
しかも1967年にできた摩耶埠頭は、当時の姿よりも震災などの影響もあって埋め立てが進んでいると聞く。
それでも、あきらめないでぐんぐん彷徨っていると旧第3突堤のあたりだろうか、一切立ち入りができない様子の埠頭の中で、ほんのすこしの切れ間にたどり着くのに成功。
早速、用意したソフビ人形キングジョーとセブンで記念撮影。

摩耶埠頭から発射されたライトンR30爆弾で被弾したキングジョーは、現在のポートアイランドの北側と新港東埠頭沖の間の地点で、キングジョーは大爆発し最期を迎える。
当時私も真似をした、あのお茶目な“気をつけ背面倒れ”で。
こうしてのら猫警備隊西へ・ロケ地小五郎子の神戸ロケ地巡りは無事終了。
もちろんこの間、主演映画の舞台挨拶やサイン会トークショー、ラジオ生出演に至るまで任務遂行。神戸のファンの方々(しかもデビュー当時からの!)との出会いは心から嬉しかったし、誰から頼まれたわけでもないが、本当に思い切って行ってよかったと思っている。

もし脚本家の金城哲夫氏が『ウルトラ警備隊西へ』とタイトルに書かなければ、私は西へ、つまり神戸に行っていないかもしれず、不思議な縁を感じるのであった。
ワンツースリーフォー ワンツースリフォー ウルトラーセブン♪