2017年度「東証1部・2部上場企業 不動産売却」調査

 2017年度に国内不動産を売却した東証1部、2部上場企業は66社にとどまり、5年ぶりに70社を下回った。工場や支店、事務所など事業に直接影響するコア資産の売却は23社だったのに対し、遊休地や駐車場、賃貸用不動産などの売却は38社と半数を超え、深刻な経営不振を補うための売却は影を潜めた。業種別では、小売業が13社で最も多かった。

  • ※本調査は、東京証券取引所1部、2部上場企業(不動産投資法人を除く)を対象に、2017年度(2017年4月~2018年3月)に国内不動産(固定資産)の売却契約または引渡しを実施した企業を調査した(各譲渡価額、譲渡損益は見込み額を含む)。
  • ※資料は『会社情報に関する適時開示資料』(2018年5月9日公表分まで)に基づく。東証の上場企業に固定資産売却の適時開示が義務付けられているのは、原則として譲渡する固定資産の帳簿価額が純資産額の30%に相当する額以上、または譲渡による損益見込み額が経常利益または当期純利益の30%に相当する額以上のいずれかに該当する場合としている。

不動産売却は66社、5年ぶりの70社割れ

 会社情報の適時開示ベースで、2017年度に国内不動産(固定資産)の売却契約または引渡しを実施した東証1部、2部上場企業数は、66社(前年度77社)で、2012年度(60社)以来、5年ぶりに70社を下回った。
 これは、(1)上場企業の業績が軒並み好調なこと、(2)内部留保が潤沢なうえに低金利での資金調達環境が続いていること、(3)資産リストラが一巡していることなどを背景に、所有不動産の売却を急ぐ必要がなかったとみられる。さらに、買主サイドでも、不動産価格の高値警戒感や、投資対象物件の流通が少ない状況が取引を慎重にさせたとみられる。

東証1部・2部上場企業 不動産売却企業数の推移

公表売却土地総面積、55社で61万平方メートル

 2017年度の売却土地総面積は、内容を公表した55社合計で61万4,900平方メートルだった。単純比較で前年度(公表69社合計:133万6,532平方メートル)より53.9%減らした。
 また、売却土地面積が1万平方メートル以上は16社(前年度17社)で、前年度より大型案件は減少した。

公表売却土地面積トップは日東紡績

 公表売却土地面積トップは、ガラス繊維大手、日東紡績の9万6,335平方メートル。保有資産の見直しを行い、千葉県の千葉事業センターの遊休部分を売却した。
 次いで、2位は東急不動産が出資する特定目的会社2社に物流施設を売却したアスクルの7万9,967平方メートル。3位は、本社工場の移転に伴う遊休地を売却した高級陶磁器食器メーカー、ノリタケカンパニーリミテドの7万1,328平方メートル。

譲渡価額総額、28社合計で867億円

 譲渡価額の総額は、公表した28社合計で867億9,200万円(見込み額を含む)だった。
 トップはアスクルの204億円。次いで、2位がノリタケカンパニーリミテドの150億円。3位が関連のインフラ投資法人に稼働中の発電施設を売却したタカラレーベンの145億1,400万円。4位が欧米風邸宅での挙式・披露宴など婚礼事業が主力のツカダ・グローバルホールディングスの68億円と続く。譲渡価額100億円以上は3社(前年度7社)だった。

譲渡損益、58社合計で1,999億円

 譲渡損益の総額は、公表した58社合計で1,999億5,900万円(見込み額を含む)だった。内訳は、譲渡益計上が56社(前年度60社)で合計2,001億7,000万円(前年度2,324億3,000万円)。
 譲渡益トップは、かんぽ生命保険の850億3,400万円。次いで、不二家190億円、ノリタケカンパニーリミテド130億円、大日本印刷105億円と続く。これに対して譲渡損を公表したのは2社(前年度9社)にとどまり、譲渡損の合計は2億1,100万円(前年度116億100万円)だった。

業種別、最多は小売業の13社

 業種別では、最多が小売業の13社だった。次いでサービス業が12社、食料品が6社、繊維製品が5社と続く。業種別の売却土地面積では、ガラス・土石製品が16万7,664平方メートルでトップ。次いで、小売業が12万3,980平方メートル、食料品が7万5,311平方メートル、電気機器が4万6,093平方メートル、化学が4万3,991平方メートルの順だった。

 2018年の公示地価(1月1日現在)では、地方圏の商業地・工業地が26年ぶりに上昇に転じるなど全国的に地価の改善が進んだ。東京五輪を前にして国内観光地に集まる訪日外国人増加が地方の地価上昇に与えた影響が指摘されている。
 2017年度の上場企業の不動産売却は、好業績を背景に5年ぶりに70社を割り込んだが、訪日外国人の増加は、新たな観光・商業施設の開発需要が見込まれることで状況を一変させるかもしれない。上場企業では、既存事業の見直しで工場や店舗、事務所などの集約を進める企業が多く、今後は地価上昇を横目に睨みながら、経営資源の有効活用としての不動産売却が増加する可能性がある。

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