情報収集サボタージュ ヘイト集会許可巡り川崎市教文会館

【時代の正体取材班=石橋 学】川崎市のヘイトスピーチ対策の阻止を公言する極右活動家、瀬戸弘幸氏が市教育文化会館(川崎区)で講演会を計画している問題で、貸し出しの可否を判断する同館が適切な対応を怠っていることが10日、分かった。判断材料にするべき瀬戸氏の言動について責任者の豊田一郎館長が未確認なままの状態が続いている。市人権・男女共同参画室は神奈川新聞の取材に「ガイドラインに沿った対応とは言えず、好ましい状態ではない」と落ち度を認めた。

 公的施設でのヘイトスピーチを防止する市のガイドラインでは、利用を不許可にしたり、判断に迷ったりした場合、学識者で作る第三者機関「ヘイトスピーチに関する部会」に意見聴取し、最終決定する。判断に当たっては、申請者・団体の性質や活動歴、過去の言動などをインターネットなどから収集し、判断材料にするとしている。

 瀬戸氏は昨年12月、同館を利用してヘイト集会を開いていることから、ガイドラインの運用を所管する同室は、インターネット上に投稿された動画について同館に情報提供していた。

 ところが、豊田館長は神奈川新聞の取材に「動画は冒頭しか見ていない。瀬戸氏がどんな人物か知らないので、映っていたのが誰かも分からない」と回答。動画は20分程度だが、「忙しくて見ている時間がない」と説明している。

 やはり同室から伝えられた、瀬戸氏主催のヘイトデモや集会に関する新聞報道も確かめていないという。瀬戸氏のブログについては毎日確認し、動画は別の職員が見ているとしたが、過去の言動に関するその他の確認情報については「話せない」としている。

 代表的な人種差別扇動者である瀬戸氏の言動については講演会や街頭演説などの動画がユーチューブに多数投稿されている。

 瀬戸氏は昨年12月に同会館で講演した際、ガイドラインなどの市のヘイト対策について「日本人の権利が奪われる」「市長のマニフェストには条例を作るとは書いていない」といったデマを交えながら、「ここは日本。われわれが主役」などと在日コリアンを排斥するヘイトスピーチを繰り返した。昨年7月のヘイトデモでも横断幕やプラカードで在日コリアンを敵視、排斥するメッセージを掲げていた。

 いずれも動画がネットにアップされ、コメント欄には「在コは、発見次第射殺しても良いという法律を制定して下さい」などの書き込みがなされ、差別があおられている様子がみてとれる。

 瀬戸氏は、人種差別団体「在日特権を許さない市民の会」(在特会)を創設した桜井誠(本名・高田誠)氏が会を衣替えして結成した極右政治団体・日本第一党の最高顧問も務める。3月に相模原市内で行った講演では、党首の桜井氏がヘイトスピーチ解消法やヘイト規制条例について「作った人間を木からつるす。物理的に処分する」と、ヘイトスピーチによる被害を訴えた在日コリアンらを念頭に「虐殺」を宣言。瀬戸氏も同調し、差別根絶を目指す条例案が審議されることになる川崎市議会の傍聴を呼び掛け、「傍聴に行くと言うと連中がヘイトだ何だと大騒ぎしておもしろい」などと嫌がらせを予告している。

 講演会を巡って瀬戸氏は4月27日、自身のブログで利用申請を行ったことを明らかにし、6月3日に講演会を開くと告知している。在日コリアン市民の間で不安が広がっている。

 同室の池之上健一室長は同館の対応について「ガイドラインではあらゆる情報を集めて判断することになっており、適切に情報収集に当たっていると思っていた。最終判断を行う館長が提供された情報さえ確認していないのは好ましい状態ではない」としている。同館からは「情報収集中」との連絡があっただけで同室もその後の状況を問い合わせていなかった。池之上室長は「館長は当然動画を見ていると思っていた。このレベルとは思っていなかった」と話している。

瀬戸氏が6月3日に講演会を計画している川崎市教育文化会館=川崎市川崎区

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