解放された米国人は北朝鮮でどんな扱いを受けたか

By 太田清

10日、アンドルーズ空軍基地で解放された3人を出迎え、報道陣の前で話すトランプ大統領(AP=共同)

 北朝鮮が解放した米国人3人が10日未明、米首都ワシントン郊外のアンドルーズ空軍基地に到着、トランプ大統領夫妻らの出迎えを受けた。トランプ氏は「おめでとう」と言いながらそれぞれと握手し、百数十人の記者団を前に「(朝鮮労働党委員長)金正恩氏に感謝する」と述べた。3人の健康状態は良好で、米メディアは「感動の帰国」を大々的に伝えた。ハッピーエンドで終わりそうな話だが、3人が北朝鮮でどのような処遇を受けていたかも今後、徐々に明らかになっていくだろう。米メディアの報道では既に、その過酷さの一端が浮かび上がっている。 

 トランプ氏とともに、3人を出迎えたペンス副大統領はABCテレビのインタビューで、3人を乗せた航空機が燃料補給のためアラスカ州アンカレジの空港に着陸した際、「うち1人が航空機から出たいと願い出た。とても長い間、日光を見ていなかったからだ」と語った。3人とともに平壌から帰国したポンペオ国務長官の話として伝えた。 

 2015年10月にスパイ容疑で拘束されたドンチョル・キム氏は空軍基地で記者団に対し「いろいろな扱いを受けたが、多くの強制労働に従事した」と述べた。一方で「病気の際は、治療を受けることもできた」とも語った。一部韓国メディアは、3人が解放前、北朝鮮に人権弾圧はないという主張の正しさを強調する教育を受けていたと伝えた。

 人権弾圧を批判されている北朝鮮が3人を解放したことについて、ペンス副大統領は「あなたが見ているのは、外交なのだ」と述べ、3人の解放は米朝首脳会談を前にした〝外交活動〟の一環であることを認めた。 

 北朝鮮で拘束された後、解放された米国人としては昨年6月に帰国した大学生オットー・ワームビアさんがいる。ワームビアさんは昏睡状態のまま帰国直後に死亡、両親は4月26日、「息子は北朝鮮の金正恩政権による容赦のない拷問を受け殺害された」と訴え、北朝鮮に損害賠償を求めて米連邦地裁に提訴した。 

 ペンス氏はCBSテレビに対し、3人の解放の直前にワームビアさんの両親と話をしたことを明らかにした上で「(死亡した)オットーは私たちの心の中にある」と述べ、ワームビアさんの悲劇を忘れないと強調、「北朝鮮の人権問題に対して幻想は持っていない」と断言した。 

 米国の非政府組織(NGO)「北朝鮮人権委員会」のグレッグ・スカラトー事務局長は米紙ニューヨーク・タイムズに対し、3人の解放を歓迎するとしながらも「日本や韓国の拉致被害者のほかに、北朝鮮の政治犯収容所に収容されている12万人の北朝鮮人について思い起こす時だ」と述べ、米朝の融和の機運にかかわらず、北朝鮮の人権状況にさらに目を向けていくべきだと指摘した。 (共同通信=太田清)

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