9世紀も巨大地震か 「相模トラフ」の痕跡が鎌倉、逗子に 温地研調査で

 相模トラフで繰り返す関東大震災級の巨大地震が、8~9世紀にも発生していたことを示唆する堆積物が鎌倉、逗子両市の沿岸部から見つかった。調査した県温泉地学研究所の萬年一剛主任研究員は「878年の元慶地震が該当する」と推定。同トラフはマグニチュード(M)8級を何度も起こしてきたとされるが、江戸時代より前の詳しい履歴は分かっていないだけに、周期解明の手掛かりとしても注目されそうだ。 

 元慶地震は、平安時代の歴史書「日本三大実録」に記録された大地震の一つ。相模・武蔵国で被害が大きかったと記述されている。今回の成果により、同地震が相模トラフで起きたと断定されれば、最新の知見でも推定180~590年と幅がある発生間隔の絞り込みや履歴の解明が一歩進むことになる。

 発見のきっかけは、東日本大震災を受けて県が2011年度から進めた津波堆積物調査。海岸付近の幼稚園や公園などで深さ5メートルほどの掘削を行った。狙っていた津波の痕跡は発見できなかったものの、現在の海面付近の標高から貝のかけらなど、かつて干潟が存在していたことを示す堆積物などが複数地点で見つかった。

 相模湾沿岸や三浦半島、房総半島の南部は、相模トラフのM8級のたびに隆起することが知られている。「調査地点は過去の地震の際に持ち上げられて波による浸食などの影響を受けなくなり、当時の堆積物が残ったのではないか」と、萬年主任研究員はみている。

 こうした干潟堆積物の年代を含有物から測定した結果、(1)17世紀以降(2)13世紀ごろ(3)8~9世紀-と地点によって三つの年代に分かれることが判明。(1)は関東大震災(大正関東地震、1923年)の一つ前に当たる元禄関東地震(1703年)。(2)は鎌倉時代のM8級(1257年の正嘉地震か1293年の永仁地震)が有力で、(3)は元慶地震と判断した。

 元慶地震については、活断層である伊勢原断層が起こしたとの説もあるが、萬年主任研究員は調査を踏まえ、「伊勢原断層は(相模トラフから枝分かれした)分岐断層という解釈も成り立つ」との見解を示している。

 歴史上、相模トラフで起きたM8級のうち、発生時期が明確なのは、関東大震災と元禄関東地震の2回のみだった。政府・地震調査委員会は2014年の評価見直しで、永仁地震を元禄の一つ前のM8級と新たに認定したものの、専門家からは異論も示されている。

 また、静岡・伊東で発見された津波の痕跡とみられる堆積物から、15世紀末の明応年間にもM8級があった可能性が指摘されているが、証拠が乏しく、地震調査委も相模トラフの地震とは判断していない。鎌倉、逗子市の沿岸部からは、明応年間に該当する干潟堆積物は見つからなかったという。

 萬年主任研究員は「房総半島の南端には、M8級による隆起の痕跡が海岸段丘として残っている。相模湾沿岸は次のM8級が起きるまでに沈降するため、段丘は形成されにくいが、今回のような手法で履歴を把握できるのではないか」と今後の研究の広がりを期待している。

 調査成果は、20日から千葉市で開かれる日本地球惑星科学連合大会で発表される。

干潟堆積物が見つかった地域の図

© 株式会社神奈川新聞社