87歳大道芸人、鎮魂の舞 現役最高齢、病から復活

 鎮魂の舞を半世紀にわたり披露している伝説的な大道芸人がいる。国内現役最高齢というギリヤーク尼ケ崎さん(87)。亡き母や妹への思いを込めた供養の踊りは阪神大震災直後の兵庫・神戸で披露して以降、「祈りの踊り」と評され、海外でも公演を重ねる。19日には横浜市神奈川区の六角橋商店街で横浜公演を開催。高齢に伴う衰えに加えて重い病を患ったが、懸命のリハビリで復活を果たし、大勢のファンの前で魂の舞を踊る。

 震える手で大きな古いテープレコーダーから津軽三味線を流す。三味線の演奏が激しくなるにつれて、赤いふんどし姿で数珠を振り回し、体を地面にたたきつけ、転がったかと思うと、跳びはねる。80代とは思えない軽やかな身のこなしと鬼気迫る踊りに、観客は次第に吸い込まれていく。

 ギリヤークさんは1930年、北海道・函館で生まれた。本名は尼ケ崎勝見さん。芸名は、顔立ちが似ているという樺太の少数民族「ギリヤーク」に由来する。

 俳優を目指し、57年に全日本芸術舞踊協会の全国合同公演でデビューしたが、思うように芽が出ない。自らの才能を追求して大道芸人に転じ、68年10月に東京・数寄屋橋で初公演を果たした。以来半世紀、身一つで投げ銭を唯一の収入源に生きてきた。

 東京・新宿をホームグラウンドに、米国やフランス・パリなど国内外の街頭で研さんを積み、独自の境地を切り開いた。95年の阪神大震災直後の神戸で供養の舞をささげ、2011年の東日本大震災以前から公演する宮城・気仙沼をはじめ、被災地に足を運び続ける。

 六角橋商店街では、大道芸のイベント開催を構想していた関係者から声が掛かったのを機に04年からほぼ毎年5月、イベント「ドッキリヤミ市場」(午後8~10時ごろ)に合わせて公演してきた。戦後の荒廃した中で必死に生きようと闇市から発展し、今もエネルギーあふれる同商店街への思い入れは深い。

 パーキンソン病を患い、脊柱管狭窄(きょうさく)症など複数の病も抱えて公演を中止したこともあったが、リハビリを重ねて体を動かせるようになったため、街頭50周年の記念公演を横浜含め全国5カ所で企画。88歳の誕生日を迎える8月19日は故郷の函館で、街頭50周年となる10月8日は新宿の三井ビル前で公演する。

 3年ぶりの関西公演として今月3日に開催した京都には約500人もの観客が駆け付けた。

 「全身を使った激しい踊りはあまりにも衝撃的で、畏怖というか、畏敬の念を抱かせる」。ギリヤークさんに寄り添い、写真集を出版したこともある横浜市西区の紀(きの)あささんは鎮魂の舞をこう評する。その上で「これまでは『日本一の大道芸人になる!』と、50周年を迎える88歳での公演を目標に掲げてきた。京都公演では90歳まで頑張ると意気込みを語ったほど元気で、力強い踊りを横浜でも見てほしい」と話している。

 横浜では代表作「念仏じょんがら」のほか、「じょんがら一代」「よされ節」の題目を披露する。六角橋商店街のふれあい広場で、午後9時15分~10時ごろ。入場無料、投げ銭歓迎。問い合わせは商店街事務所電話045(432)2887。

「念仏じょんがら」を披露するギリヤークさん=2015年5月、六角橋商店街

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