「イズム」に飲み込まれない理念ある市場を ー国連グローバル・コンパクト ボードメンバー 有馬 利男氏

国連グローバル・コンパクト ボードメンバーの有馬利男氏が「サステナブル・ブランド国際会議2018東京」に登壇した。有馬氏は基調講演「SDGsから見えてくる Good Life」のなかで、ステークホルダーとのかかわり、深刻化する社会課題、投資家の動向などビジネス環境の変化を挙げながら、「SDGs(持続可能な開発目標)に対し、企業が貢献できることはたくさんある」と訴えた。講演の内容を一部抜粋して紹介する。

有馬氏は、社会貢献を意識する企業の増加やESG投資の広がりなど最近の変化の発端として、1999年のコフィー・アナン元国連事務総長のスピーチを紹介した。

グローバリゼーションの陰で進行する児童労働や環境破壊を憂慮したアナン氏は、ダボス会議に集まった世界のビジネスリーダーたちに「人間の顔をしたグローバル市場を一緒につくりましょう」と呼び掛け、人権・労働・環境問題への取り組みを求めた。そして、国連も後押しするという文脈で「コンパクト(約束)」という言葉を使った。

翌2000年に国連グローバル・コンパクトが合意され、同じ考えに基づいてミレニアム開発目標(MDGs)が掲げられた。それに続く目標が、現行のSDGsである。

アナン氏は当時、グローバル市場は行動基準がなく非常に脆弱で、すぐに世界のイズムに侵され壊れてしまうと言った。「イズム」には、ポピュリズム、テロリズム、保護主義、国粋主義、民族主義、原理主義などが含まれる。有馬氏は、「あれから20年近く経ち、今まさにそういう状況が見える」と述べた。

ビジネスモデルが10年後まで持つと思う企業人が4%しかいない(日本能率協会調べ)変化の激しい時代だ。原点を見れば、日本には「三方よし」「先義後利」という倫理観があり、そもそも収益はソリューション提供への報酬であった。「それに反するフィナンシャルな世界で、利益だけを追う資本主義がはびこったのは、ここ20ー30年」である。

いま再び社会は、ESGあってこそのサステナブル経営だと気付き始めている。「この勢いを殺さず推進していくことが、現代の企業に関わる者の責任ではないか」と、有馬氏は語った。

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