まだ現役の選手でありながら、FIFA(国際サッカー連盟)が運営するスポーツマネジメント系の大学院『FIFAマスター』を修了した元日本代表FW大滝麻未。
先月、筆者もその類まれなキャリアを持つ彼女を取材させていただいた。
【前回インタビュー】『FIFAマスターから東京五輪へ~元日本代表FW大滝麻未の現在地』
来年行われる女子ワールドカップ出場も期待される『文武両道』の彼女が、なんと母校・早稲田大学で行われる公開セミナーにゲストスピーカーとして参加することが決まった!
フランスで選手として活動し、さらにサッカー界の最先端を学んできた。唯一無二の存在と言える彼女の話が聞けるのは、非常に貴重な機会だと言えるだろう。
その楽しみなイベントを前に…今のサッカーにどのような感触を持っているのか、どんな思いでキャリアを送っているのかを伺ってきた。
プレナスなでしこリーグ2部第5節、敵地でのバニーズ京都SC戦で貴重な追加点を奪ってチームの勝利に貢献した直後、「古巣での最後の挑戦」と決意を胸に戦う大滝が再び取材に応じてくれた。
そして、そんな彼女からの“お知らせ”も、どうぞご覧ください。(取材日:2018年5月6日)
【プレナスなでしこリーグ2部第5節、バニーズ京都VS ニッパツ横浜FC戦レポート】
「前線で起点になれるFW」…なでしこに必要では
大滝は2015年5月に1度現役を引退し、『FIFAマスター』に入学・卒業。ちなみに同期には京都パープルサンガ(現・京都サンガ)から羽ばたき、マンチェスター・ユナイテッドなどでもプレーした元韓国代表MFパク・チソンも。
昨夏にフランスで現役復帰し、今季から中学・高校時代に所属した古巣へ加入した大滝。筆者が先月取材に訪れた際にも「2020年の東京五輪に出たい」と現役復帰した理由を語ってくれた。
そして、その直後になでしこジャパンが『AFC女子アジアカップ2018』 で連覇を達成。同時に来年開催される『FIFA女子ワールドカップ2019フランス大会』への出場権も獲得した。
開催地のフランスは、オリンピック・リヨンを始めとして大滝が長くプレーしていた“ホームグラウンド”であるというアドバンテージもある。
――なでしこジャパンがヨルダンで開催されていた『AFC女子アジアカップ2018』 で連覇を達成しました。ご覧になられていましたか?
もちろんです!優勝という結果を勝ちとったことは凄いことです!
――あの中に自分がいたら、「こういうプレーをしているな!」などと考えたりするのでしょうか?
やっぱり、なでしこジャパンの前線の選手には小さくてスピードのある選手が多いので、「自分が前でしっかりとキープして攻撃の起点を作れるようなサッカーができると、自分も代表で1つのピースになれないことはないな」と思って観ていました。
――そんな代表への想いを聞かせていただけますか?
もちろん、代表への想いはあります。でも、今はシーガルズという所属チームのことが最優先です。
チームとしてしっかりと結果を残していくことで、代表という所に行けたら嬉しいです。でも、まだそこ(代表)へ執着し過ぎず、チームでしっかりとやっていきたいと思います。
「女イブラ」のようなゴール…その秘訣
バニーズ京都SC戦でチームの2点目となるゴールを決めた、ニッパツ横浜FCシーガルズのエース大滝麻未。
ややアバウトなフィードに抜け出し、ボールコントロールがイメージ通りには行かずとも決めきってしまう。相手からすれば理不尽にも感じられるほどの「個の力」を見せた。
それはまるで、オリンピック・リヨン時代に2トップも組んだ「女イブラヒモビッチ」スウェーデン女子代表FWロッタ・シェリンのような…。
――今日は貴重な追加点を決めましたね!
自分のイメージとは違うボールが来て、しかもボールをコントロールしていると相手にも当たって。上手くボールがこぼれて結果オーライという、あとは押し込めば良いだけのゴールでした。
――先制点もスルーを使って間接的にアシストされました。その場面に限らず、2トップを組む高橋美夕紀選手との連携は良かったですね!
そうですね。先制点の場面では逆サイドに走っていく選手が見えたんですが、同時に相手もそちらに気を取られていたのが分かったので、スルーで流しました。2トップの連携は最近どんどん良くなっていますね。
――バニーズはゴールキックから自陣でパスを繋ぐことも多いポゼッションサッカーを貫くチーム。それに対してシーガルズは高い位置からプレッシングをかけ続ける、という構図が続いた試合でしたね。
相手がボールを回してくるのは分かっていました。自分たちの2トップで奪えなくても、ボランチのところで奪えるようにプレスをかけたり。
挟み込んでボールを奪うという狙いが周囲と上手く連携・連動できていました。そういう意味では思惑通りにハマっていたと思います。
彼女の存在が、他のチームの「学習体験」に!
――京都のセンターバック石井咲希選手(写真:17番)は浦和レッドダイヤモンドレディース時代のチームメートですね。大滝選手が『FIFAマスター』で勉強している間、石井選手はなでしこジャパンにも招集されるようになった急成長中のDFです。マッチアップしてみて如何でしたか?
私がレッズLでチームメートだった時は、いっしー(石井のニックネーム)はずっとサイドバックをしていたので、センターバックと聞くと不思議な感じがしました。
球際に強いイメージはなかったので、そこは勝負してイケる!と思っていました。知っている選手が相手なので、やりやすい部分はありましたね。
ただ、足が凄く速くて、落ち着いていて、カバーリングの対応も良かったですね。今日も対戦してみて『これからももっと成長して欲しい良い選手』だと思いました。
――シーガルズは雪の影響で8月25日に延期となった開幕戦を除き、4試合を消化しました。2勝1分1敗というスタートで連戦を終える形になりましたが、ここまでの結果はどう考えておりますか?
正直、このゴールデンウィーク3連戦で勝点9ポイントを目指していました。その中での4ポイント(GW期間は1勝1分1敗)は満足していないです。
でももう終わってしまったことなので、ここからチームとして成長していけるかが大事です。なので、反省しつつ、引き摺らないで良い方向に行くようにやっていきたいと思います。
(※その後、第6節で静岡産業大学ボニータ相手に2-2の引き分け。5試合で2勝2分1敗の勝点8で4位。5月13日現在)
ちなみにこの日の対戦相手であったバニーズの千本哲也監督は、大滝について、
「うちのセンターバック石井と山本裕美の2人も今日は何とか対応していたんですが、それでも最終的にはやられてしまいました。ただ、彼女のような“個”の能力が高いストライカーが2部リーグにもいるのは凄いことです。
毎週のリーグ戦であのレベルのFWと対峙できれば、DFの個の能力も鍛えられるでしょう。フラットな目線で言えば、彼女の存在が競技力の向上にも繋がると思いますので良いことだと思います」
と、述べていた。
5月28日、大滝麻未選手の貴重な講演を聞き逃すな!
――それでは最後に伺います。5月28日に母校・早稲田大学の大隈講堂で行われる公開セミナー『スポーツ×アカデミックを考える2』(※)でスピーカーとして登壇されることが決まりました。大滝選手ご自身からのお知らせをお願いします!
まだまだ日本のスポーツビジネスは発展途上だと思いますが、2019年にラグビーワールドカップ、そして2020年には東京五輪が控えていて、スポーツ産業はこれ以上にないチャンスを迎えていると思います。
これらの国際大会を通じて日本のスポーツ界にレガシー(遺産)を残し、その後もサステイナブル(持続可能)なスポーツ文化を作り上げて行くためにも、これからもっともっとスポーツマネジメントの知識を身につけた人材が必要になると思います。
私は『FIFAマスター』を通じて学んだこと、そしてそれをきっかけに自分のキャリアにどんな変化やチャンスが生まれたかを中心に、これからのプランにも言及したいと思います。
受講料は無料なので、皆さん、是非ご参加ください!
(※早稲田「スポーツMBA Essence」公開セミナー。5月28日(月曜)に早稲田大学の大隈記念講堂 大講堂で開催。詳細は上記ツイートのリンク先へ)
――どんな人に来てもらいたいですか?
私は自分と同じようなアスリートに来てもらいたいですね。スポーツをやりながら勉強することの大切さを、アスリートは現場感覚で分かっているというのは強いと思いますので。
それにプラスしてスポーツマネジメントやビジネスの知識を持てば、他の人にはない強みになると思います。少しでもセカンドキャリアへの準備も含めて将来の事を考えるキッカケになったら良いなと思っています。
特に女性のアスリートの方々に来て欲しいですね!
――本日は試合直後でお忙しいところ、ありがとうございました。
【プロフィール】 名前:大滝 麻未(おおたき あみ)
ニックネーム:あみ、PON会長
生年月日:1989年7月28日(28歳)
出身:神奈川県平塚市 身長:172cm 体重:60kg
所属チーム: 横須賀シーガルズ→早稲田大学ア式蹴球部女子→オリンピック・リヨン(2012.1-2013.6-)→浦和レッドダイヤモンズレディース(2013.6-2014.11)→EAギャンガン(2014.12-2015.5)で1度、現役引退。パリFC(2017.8-2018.1)→ニッパツ横浜FCシーガルズ(2018.1-)
ポジション:FW 背番号:30
今季なでしこリーグ2部:5試合出場2得点
なでしこリーグ通算(1・2部):26試合出場5得点
フランスリーグ1部通算:27試合15得点
日本代表歴:なでしこジャパン通算3試合出場0得点
ちょっぴり自慢したいこと:早起きが得意
話せる言語:日本語・英語・フランス語
筆者名:hirobrown
創設当初からのJリーグファンで、各種媒体に寄稿するサッカーライター。好きなクラブはアーセナル。宇佐美貴史やエジル、杉田亜未など絶滅危惧種となったファンタジスタを愛する。中学・高校時代にサッカー部に所属。中学時はトレセンに選出される。その後は競技者としては離れていたが、サッカー観戦は欠かさない 。趣味の音楽は演奏も好きだが、CD500枚ほど所持するコレクターでもある。
Twitter:@hirobrownmiki