出会いのかけら、1枚の絵に 加藤登紀子 6月、横須賀で公演

 歌手の加藤登紀子(74)が6月16日によこすか芸術劇場(横須賀市)でコンサートを行う。一昨年はエディット・ピアフ、昨年は横浜生まれの美空ひばりらをテーマに、歌い手の人生や曲の背景をひもといてきた。自らと向き合うことしは、横浜港からハバロフスク号に乗船し演奏旅行に出掛けた1968年を軸に、革命家らに愛された歌などを、その歴史とともに披露していく。 

 加藤は東京大学在学中の65年に歌手デビュー。ベトナム戦争や民主化に揺れ、世界で若者が立ち上がった68年は「人生の転機」と振り返る。

 学生運動の中心的存在で、後に夫となる藤本敏夫と初デートしたのも68年。夜空を見上げた藤本が「知床旅情」を口ずさみ教えてくれた。

 言いようのない悲しみを含んだ声に触れ「歌は音符と言葉でできているけれど、人が体の中で奏でると、命に変わる」と胸を打たれた。

 この年の秋、藤本が東京拘置所に勾留された。激動の中、藤本から届いた一通の手紙を元に69年3月の大雪の日に生まれたのが「ひとり寝の子守唄」だ。

 「歌は人という器に運ばれ、どこまででも旅をする。歌は自由でなくては」

 この世でただひとりだけの、あなたに届くよう。聴き手を包み込むように、つづられた歌は人の心を打ち、レコード大賞歌唱賞の受賞につながった。

 横須賀では加藤のオリジナル曲はもちろん、フランス五月革命の際に市民を鼓舞した「美しき五月のパリ」、ミハイル・ショーロホフの小説「静かなドン」に登場するコサックの子守唄にヒントを得たピート・シーガーの反戦歌「花はどこへ行った」、150年以上前に生まれた「さくらんぼの実る頃」など、国を揺るがすような出来事に寄り添ってきた歌も届ける。

 「歌には無数の人の祈りが込められている」。歴史が好きな加藤の傍らには、いつも膨大な関連書籍や資料がある。文献に目を通し、時代に思いをはせる。街のにおいを細胞で感じたい。人々が声を上げた通りを歩き、遺族に会うなど、時間をかけて刻まれた思いと対話する。「出合った曲、人が道しるべ」

 昨冬、101歳で亡くなった母の淑子(としこ)さんは、加藤に「歌は聴いてくれた人が育てるもの。心に残る歌は時空を超える」と言い続けた。

 過去、現在、未来を地続きで見つめ、歌手として50年余りがたった。「パズルのピースのようにばらばらだった出会いがつながって、1枚の絵になった」

 横須賀公演は、午後4時半開演。チケットは全席指定5500円。問い合わせは、よこすか芸術劇場電話046(823)9999。

セーラーの襟が印象的な衣装は、「横須賀をイメージしている」と話す加藤登紀子

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