有言実行の人

 自分の跳躍を「高さよりも、技術とか、ひねりでやっている」と悔やんだ。昨秋の世界選手権で、世界最高峰の人が、高さが足りないんだ-と嘆く姿が皮肉に思えたのを覚えている。高みの人、体操の内村航平選手である▲世界選手権では跳馬の着地で左足首を痛め、顔をゆがませた。それを見て思わず同じ顔になった人もいただろう。途中棄権し「けがを治して、はい上がってやる」と誓ったその人の“有言実行”だった。NHK杯の男子個人総合で、逆転して前人未到の10連覇▲今秋の世界選手権の代表入りを決めた。4月の全日本選手権では3位にとどまり、世界選手権の切符が危ぶまれただけに、きのう久々に見せたガッツポーズは「渾身(こんしん)」の一語▲出だしの床運動で最後に着地を止め「ガッツポーズを」と思ったが、取っておいたという。最終種目の鉄棒で完璧な着地を決め、そこで渾身のポーズが出た。温存して最後に出す。さらりとできることではない▲6種目全てで14点台に乗せられる選手は日本では内村選手だけで、総合力では依然、他の誰も及ばない。29歳になり「しんどい」と言いながら、世界選手権で「6種目やる覚悟」も口にした▲歯を食いしばり、はい上がり、再び立った山の頂である。ひときわ鮮やかな眺望を目に焼き付けたことだろう。(徹)

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