【山崎金属工業 創業100周年・これまでの歩みと今後の展望】〈山崎悦次社長に聞く〉「プラザ合意」転機に国内強化 新しい「デザインや機能」に挑戦

 主に高級金属洋食器の製造販売とステンレス鋼材の卸販売等を手掛けている山崎金属工業(本社・新潟県燕市、社長・山崎悦次氏)は、創業1918年(大正7年)で今年100周年を迎える。節目の年を迎えるに当たり、山崎社長にこれまでの会社の歴史と今後の展望を伺った。(杉原 英文)

――創業からの道程。

 「創業者は私の父親である山崎文言。鎚起銅器職人から身を起こし、大正後半から昭和初期にかけて、真鍮、銅、洋白、銀などでスプーンやフォークを製造した。その後、日本で初めてスウェーデン製ステンレス鋼材を輸入し、金属洋食器の製造を開始。戦時中は金属洋食器の製造を一時中止し、飛行機の主翼や尾翼の部品を製造した。戦後、金属洋食器の製造および北米向けに輸出を再開した。1952年に法人化、山崎金属工業を設立し、兄の山崎馨が社長に就任。自身が社長に就任したのは84年になる」

――金属洋食器の海外展開を振り返って。

 「50年前半に、海外では輸入制限の問題が発生し、その対応策として57年に燕市に『日本金属洋食器工業組合』が通産省の直轄組合として設立され、海外への輸出のルールが定められた。最初は対米国向けであったが、次いで対欧州も対象となり、輸出あるいは輸入規制が行われた。その後『ニクソンショック』が起こり、大きな為替変動が起こった。当時はまだ、台湾や韓国は主な競争相手ではなく凌げたが、85年の『プラザ合意』でさらに円高となり、輸出が大きく減少し事業の見直しを迫られた。金属洋食器製造業は、自動車部品の下請けや金型製作などへ事業転換を図り、窮地を乗り切った」

 「当社は、それまで輸出商社を通じて販売していた販売網を見直し、80年米国に現地法人『YAMAZAKI TABLWARE INC.』を立ち上げ、高級デパートや専門店に対して直販を開始した」

――振り返って、一番の転機は。

 「85年の『プラザ合意』の時期の窮地が一番の大きな転機で、リストラや一時休業で凌いだ。この頃は、世界中の大手業者が仕入れ先を、日本から韓国へとシフトした時期と重なる。当社は対策として、国内販売をより強化すべく、81年に国内直販会社ヤマコ(2004年山崎金属工業国内営業部に統合)を立ち上げた」

――その後の戦略は。

 「当社は『品質・デザイン・マーケティング』を経営方針に掲げ、『YAMAZAKIブランド』の確固たる地位を築き上げた。しかしながら、急速に力をつけた後進国に市場を脅かされ、燕産業界では、異業種に事業転換を始めたが、後継ぎがいなく昨今の高齢化で廃業する『大きな変換期』が足早に進みつつあるのが現状だ。また、国際化でアジア諸国からの輸入は増加、デフレはまだ収まらない。日本の地方のもの作りは非常に苦しい状況に追い込まれている。一方で、海外向け製品は『メイドインJapan』が評価・再認識され、海外マーケットでは商品が差別化されて売れている」

――山崎金属工業の印象的な出来事は。

 「一番の思い入れは、91年ノーベル賞晩餐会で使用される『ノーベル賞オリジナルカトラリー』を製作し、提供したこと。その他の商品でも『品質とデザイン』が認められたことが記憶に新しい。一つには、JR東日本のダイニングカーで使用される『四季島オリジナルカトラリー』、もう一つには、JR九州のダイニングカーで使用される『ななつ星オリジナルカトラリー』。また、伊勢神宮の13年に執り行われた式年遷宮では、他の地域の産地のテーブルウェアとコラボをし、『記念のオリジナルカトラリー』を奉納したことだ」

――山崎社長のこだわりとは。

 「会社のトップとしてデザイン開発が好きで、またこだわりを持ち続けている。これは良いデザインだと思う商品が売れると本当に嬉しい。世界市場の流れから見ると、近年、デザインの寿命が短くなっているようだ。今は長くても5年位、平均的には2~3年。常に先頭を走り続けるには、新感覚で視野を広げ、需要を先取りした製品造りを目指さなければならない」

――今後の方針は。

 「今注目したいのは国内マーケットに合わせたデザインで、付加価値が高い商品を提供すること。一方、日本のステンレス鋼材を製造する業界では、いろいろな特性を持った鋼種が開発されている。これらの材料を使って、今までにない『デザインや機能』などを持った目新しい商品の開発にチャレンジしているところだ。経営環境は日々変化し、ますますスピード感が重要になっている。社員には、常に新しい感覚で挑むことを切望している」

――海外戦略はアジアに注目。

 「既存の欧州・米国は勿論のこと、アジアの富裕層、特に中国・シンガポール・香港・台湾等々を拠点として近隣国の商機を探って行きたい」

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