漫画村、出版社による刑事告訴の修羅…類似海賊版サイト出現までのイタチごっこ

類似海賊版サイト出現までのイタチごっこ

先日来、ブロッキング問題で騒ぎが広がっていたブロッキング問題ですが、どういうわけかいまごろになって「捜査着手」という不思議な事態になっていました。それも、サイバー犯罪に定評のある警視庁や京都府警、大阪府警などではなく、福岡県警や大分県警であったので、どういうことなのだろうと憶測が飛び交うわけであります。

「進撃の巨人」「ONE PIECE」…海賊版「漫画村」捜査着手 延べ6億2千万人利用 福岡県警 - 産経ニュース
https://www.sankei.com/west/news/180514/wst1805140032-n1.html

実際、ブロッキング問題が大きくなってからの捜査着手の報道ということもあって、刑事事件に詳しい弁護士は「刑事告訴は昨年提出されていたものの受理されず、捜査も行われていなかったのではないか」と推測する一方、東京都に本社のある講談社や集英社が最初に相談するはずである警視庁は無風であったことも含めると、この問題の根深さというのはかなりのものがあると感じるわけであります。

2012年には有斐閣など法律専門出版社のコンテンツがそのままサイト上に掲載され、被害確認から実際に捜査が開始されるまで一年近くかかっておりました。また、同じ海賊版サイトとしてユーザーを集めていた「FreeBooks」は新潮社ほか出版各社が対策に乗り出していたものの埒が明かず、結局インターネットの本人特定や違法情報削除などに詳しい弁護士がようやくアサインされて話が進み閉鎖に至ったとされており、同じ法律家でも民事訴訟と、著作権と、ネット実務といずれも専門分野が違い、違う専門分野のセンセイに頼んでも解決しないことが多いのだということが如実に分かる展開となっている次第であります。

本件では、すでに名指しされていた「漫画村」「Miomio」「Anitube」いずれもサイトが閉鎖され、運営者が判明しているにもかかわらず、NTTグループだけがなぜかブロッキングを強行したため、これはこれでどうするつもりなのだろうという話になっております。

何しろ、ソフトバンクやKDDIも追随しないでNTTグループが独走する形になってしまい、その後の推移で「実際にブロッキングするかは問題サイトの動向を見ながら検討をします」と言えばいったんは終息するはずだった本件。どういうわけか退陣が決まっている鵜浦博夫社長の「とんだ置き土産」のようなインパール作戦状態になってしまったため、NTTの法務などスタッフ部門は頭を抱えているのではないかと思います。

NTT社長、海賊版サイト遮断で熱弁 「無法地帯放置せず」: 日本経済新聞
https://www.nikkei.com/article/DGXLASFL11HPM_R10C18A5000000/

これらの海賊版サイトは実際には閉鎖になってなお、現在ではなかなか追跡がむつかしいtor(トーア)のネットワークなどを介してアクセスされるダークウェブに新たな海賊版アップロードサイトやリーチサイトが複数立ち上がっており、アップロードされているデータを見る限り、これらの「漫画村」と同じかに多様な手法を駆使するグループの関与が疑われる状況になっています。イタチごっこ以外の何物でもないのですが、ではこれらの著作物が違法に頒布される状況を見過ごしていいのか、あるいはこれを緊急避難として重視しまんがやアニメを見せないために他の人々の通信の中身を見るようなブロッキングを行うのが果たして憲法の保障する通信の秘密に抵触せずにやっていけるのかというのは引き続きの論点となるでしょう。

それゆえにすでにNTTのブロッキングについては埼玉県の弁護士・中澤佑一氏が裁判を起こし、この問題の正当性については法的な面からは司法に、事件的な面からは警察に委ねられたことになります。

海賊版サイト遮断でNTTコム提訴へ 原告は弁護士 - ねとらぼ
http://nlab.itmedia.co.jp/nl/articles/1804/26/news082.html

ネット界隈的にはすでに「漫画村」の実質的な運営を担っていたとみられる東中野の法人も特定されており、むしろそういう海賊版ネットワークを含む不適切なコンテンツでアクセスをかき集めて資金にする技術系上場企業のほうがはるかに問題なのではないかと思うのですが、どうなのでしょうか。

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