〈時代の正体〉市指針運用に疑問の声 川崎・ヘイト集会問題

【時代の正体取材班=石橋 学】人種差別の扇動を繰り返す極右活動家、瀬戸弘幸氏が6月3日に川崎市教育文化会館で講演会を計画している問題で、公的施設でのヘイトスピーチを防ぐ市のガイドラインの運用と判断に疑問の声が上がっている。市は瀬戸氏の過去の言動が「ヘイトスピーチには当たらない」との見解で、現時点では不許可にする要件を満たしていないとして、第三者機関は招集されないまま。策定・公表を市議会に明言していた運用規定も未策定で、判断の重さへの自覚を感じさせない市の姿勢に批判が高まりそうだ。

 ガイドラインでは、ヘイトスピーチが行われる恐れがあり、他の利用者に迷惑が及ぶ場合、会館や公園などの使用を不許可にできる。不許可の判断をした場合、大学教授、弁護士で作る第三者機関に判断の妥当性を意見聴取し、最終決定する仕組みだ。

 運用に当たっては3月下旬、市人権・男女共同参画室が「第三者機関への意見聴取を要するケース」と題した「手続の概要」を各施設に配布。「判断に迷うケースも依頼可とする運用を予定」と明記し、同31日に運用が始まった。

 当時の担当者は「判断に迷うケース」について「『許可』か『不許可』で迷った場合」と説明。瀬戸氏が昨年12月に同会館で行った集会を許可したケースを例に「ヘイトスピーチが行われる可能性は申請者の言動を文脈から読み解くなど専門的知見が求められ、市職員で判断するには限界がある。とりわけ基準となる事例のない段階では第三者機関の意見を聴き、事例を積み上げていくことが必要」としていた。

 だが、ガイドライン初適用となる今回のケースで市はこうした運用を否定。4月に着任した同室の池之上健一室長は「ガイドライン上、不許可の判断以外で第三者機関の招集はできない。『迷うケース』とは『不許可の判断をした場合に迷いがあるケース』」と説明する。運用の幅を限定的にした格好で、福田紀彦市長も16日の定例会見で「公的施設の使用は原則は許可。許可か不許可かの判断を第三者機関に委ねることはない」と述べた。

 池之上室長は「手続きの概要は通知にすぎない」とも。市議会の答弁とパブリックコメントの回答で運用規定やマニュアルを定め公表すると説明していたが、「運用開始時になければならないものではない。今回の事例で必要性を感じており今後策定する」という。

 福田市長は16日の会見で「現時点では不許可の要件を満たしていない」との見解を示しており、判断が変わらなければ瀬戸氏の会館利用申請は許可され、講演会は開催されることになる。

 「人権侵害を防ぐガイドラインの原点を忘れていないか」。そう疑問を呈するのは市人権施策推進協議会前委員の北井大輔さん。市長の諮問を受けてガイドラインのあり方を審議し、策定を提言した立場から「担当者からは専門的知見から事例を積み上げていくと説明を受けていたが、ふたを開けたら第三者機関も開かずヘイトに当たらないと判断している。市職員による判断の限界は明らかで、何のための第三者機関かも分からない」と批判する。

 市は2016年5月にヘイトデモ主催者の公園使用を不許可にしており、「その主催者以上に差別を扇動してきたのが瀬戸氏だ。このまま許可されれば、ガイドラインができた結果、市の判断が後退することになる」と警鐘を鳴らしている。

■「被害の未然防止を」市民団体がアピール

 人種差別扇動者の瀬戸弘幸氏の講演会計画を巡り、市民団体「『ヘイトスピーチを許さない』かわさき市民ネットワーク」は23日、川崎市教育文化会館の使用を容認する市の判断に対する抗議活動を市役所前で行った。

 マイクを手に三浦知人事務局長は、瀬戸氏の言動がヘイトに当たらないという市の見解を「差別にお墨付きを与えている」と批判。在日コリアン3世の崔江以子(チェ・カンイヂャ)さんは「集会が告知されただけで差別書き込みがネットで広がり、市民は人権被害にさらされている。私たちの被害をないことにせず、ヘイトを未然防止するガイドラインを適正に運用するべきだ」と訴えた。

 昼休みで庁舎を出入りする市職員や市民に「市長は市民を守る立場に立って」と求めるちらしを配布。都内や大阪からも参加者があり、関心の高さと批判の広がりをうかがわせていた。

川崎市役所前で行われた市民ネットワークのアピール活動 =同市川崎区

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