【現地ルポ】〈NSSBサイゴン・コイルセンター〉東南アの電磁鋼板加工拠点へ 加工量拡大、月間1800トンに

 ホーチミン市から北へ20キロ弱の場所にあるビン・ズン省ベトナム・シンガポール第1工業団地。ここで2004年5月から電磁鋼板を中心とした薄板の加工拠点として操業を始めたのが、日鉄住金物産のNSSBサイゴン・コイルセンター(社長・志風正和氏)だ。越市場の拡大を共に歩んできた同社の成長の軌跡を現地で取材した。(ホーチミンシティ=黒澤広之)

 旧日鉄商事が今のNSSBサイゴンを立ち上げた当時、ベトナムの鉄鋼需要は年間700万トン程度で、条鋼建材が中心の市場だった。

 電機や二輪といった日系企業の進出が徐々に増えていたものの、どうコイルセンターの需要が伸びてくるか、まだ手探りの時代。それだけにNSSBサイゴンは「小さく産んで大きく育てる」をコンセプトに誕生した。

 同社の敷地面積は8千平方メートル、工場面積は2640平方メートル。工場建屋は発足時から増築しているが、日鉄住金物産グループの中で規模としては最小の部類に入る。

 ただ小さくとも、その中身は着々と育ってきた。旧新日本製鉄の電磁鋼板営業部による支援を受け、無方向性電磁鋼板(NO)だけでなく07年からは高い加工技術が要求される方向性電磁鋼板(GO)の取り扱いも開始。08年に20%の出資を受けた阪和興業からのオーダーも加わり、電磁鋼板だけでなく冷延や亜鉛めっき鋼板といった品種でも仕事の幅が広がった。

 さらに日鉄住金物産の発足により、旧住金物産が13%出資していた中国鋼鉄(CSC)系の越コイルセンター、CSGTメタルズベトナム(CSMV)とも関係が築かれた。NSSBサイゴンは薄物、CSMVは厚物を得意としており、ステンレスや表面処理鋼板などで特長を生かした連携を行っている。

生産性向上、安全対策を強化

 設備面では、11年にスリッターを新設し、発足当初から「先兵」として稼働してきた中古スリッターは退役。これにより加工能力が増えただけでなく、板厚0・18ミリメートルまでの薄物にも対応できるようになった。

 15年にはミニスリッターも導入したことで小回りが利くようになり、スリッターの負荷を低減した。スリッター、ミニスリッターともアーバー径を合わせ、スペーサーとカッターを共通化させている。

 このほかプレス機で電磁鋼板の端材を再加工したEIコアやトロイダルコアといった二次加工品ビジネスも手掛けている。波はあるものの徐々に増えており、ベトナム国内のみならず輸出も手掛ける。また端材はCSMVからの発生分も引き受けるなど双方でのシナジー効果も発揮している。

 現場のワーカーは24人。検査、スリッター、梱包、コアの4チームに分かれるが、石井忠昭工場長のもと多能工化が進められ、複数のスキルを取得するほど手当を厚くし工員の向上心を喚起している。また現場からの改善提案で「スリッターの生産性は一昨年に15%、昨年は7%引き上げることができた」(石井工場長)。

 一方、安全面にも力を入れている。ベトナムは離職率が高いだけに、ワーカーの3分の1は入社1年未満。浅い経験を補うため、生産性向上で生じた余剰時間を安全教育に充てている。

 取り扱う鋼材は輸入材では新日鉄住金材が中心で、地場材では新日鉄住金とCSCの薄板合弁事業、CSVCがメインとなる。加工量は毎年10%ほど増えてきており、現状は月間1800トン程度となった。

 志風社長は「電磁鋼板を中心に薄く狭く硬い鋼材を加工できる強みを生かし、コア製品の輸出を含め東南アジアにおける電磁鋼板の加工拠点へと育てていきたい」と話す。

 2012年以降は業績も黒字が定着し、配当ができるまで力を付けてきた。その余力で次なる一手をどう打つか。徐々に「大きく育ち」つつある。

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