拝啓スカパー!、最高の15年間をありがとう。CLマニアが伝えたい“感謝”の気持ち

今週末に開催されるUEFAチャンピオンズリーグの決勝戦。

ファイナルに進んだレアル・マドリーとリヴァプールはともにビッグイヤーの永久保持権を持ち、欧州制覇を計17度も達成したという名門同士だ。

海外の日本代表最新情報、Jリーグ超ゴールはこちら

直近5シーズンで4度の決勝進出という実績からマドリー優位と見る向きもあるが、決勝戦は何が起きてもおかしくはない一発勝負。ヨーロッパでも屈指の3トップを抱えるリヴァプールにも十分勝機はある。

2017-18シーズンの欧州サッカーを締めくくる大一番は、日本時間27日(日)早朝に行われる。

さて、そんなこの一戦は衛星放送局『スカパー!』が中継する最後のCLとなる。

来シーズンからCLの放映権は『DAZN』に移行することが決まっており、『スカパー!』というプラットフォームで視聴することはできなくなるのだ。

『スカパー!』とCLの関係は実に15年にも及ぶが、日本において特定の海外リーグをこれだけ長い間、ほぼ独占に近い形で放送してきたケースは他にない。

それだけに、今回の放映権移行は日本のスポーツ中継史的にも大きなインパクトを持つ出来事であり、『スカパー!』がCLの放映権を手放した(あるいは手放さざるをえなかった)という事実は驚きをもって受け止められている。

私自身、『スカパー!』のCL中継によって人生が変わったという自覚がある。

一言で言うと、どこにでもいるサッカー好きの中学生(当時)が完全にCLマニアと化し、その後の人生をサッカーに捧げることとなった。

同局に対して一方的な感謝の念があるだけでなく、そのCL中継は日本のサッカー中継において重要な役割を担ったのではないかと感じている。

今回は『スカパー!』とCLの濃密な15年間を振り返り、CLファンという立場から思いの丈を綴ることとする。

『スカパー!』が変えた“常識”

『スカパー!』がCLの放送を開始したのは2003-04シーズンのこと。

2002年ワールドカップの全試合を生中継し注目を集めた同局が、サッカーコンテンツの充実を図り放映権を獲得した。

当初ファンを驚かせたのは、ほとんどの試合が生中継だったということだ。

サッカー中継において今でこそ生中継は当たり前だが、ほんの少し前まで「見たい試合がLIVEで見られない」という時代が確かにあった。

それまでCLの放映権を持っていた『WOWOW』はチャンネル数が限られており、最大でも各節4試合の生中継がやっと。マイナーチーム同士の試合は録画放送すらなく、視聴者のもとに届けられたゲームはほんの一部であった。

そうした常識を『スカパー!』が変えた。

CLではグループステージで毎節16試合が行われるが、8試合以上が生中継となり、LIVE配信がなかったカードもキックオフから24時間以内に録画放送があった。

決勝トーナメント以降の29試合は全てが生中継であり、これにより「見たい試合が見られない」という問題点が改善されたどころか、その気になれば全125試合を完全視聴することだって可能になったのだ。

「世界最大級の生中継をお届けします! 『スカパー!』のチャンピオンズリーグ」

これは、『スカパー!』がCL放送を始めた頃によく使っていたスローガンだ。

ネット配信が主流になった現在ではなかなかその衝撃が伝わりづらいかもしれないが、当時これだけの規模で生中継を行っていたというのは世界的に見てもレアケースであったというのは強調しておきたいポイントだ。

もしも『スカパー!』が放送していなければ、2004-05シーズンのオリンピアコス戦でスティーヴン・ジェラードが決めた鳥肌モノのミドルシュートは日本で見られなかったかもしれない。

あるいは、セルティックの中村俊輔が華麗なフリーキックを決めた2006-07シーズンのマンチェスター・ユナイテッド戦は録画放送になっていたかもしれない。

「見たい試合の生中継をテレビで見られる」というのは決して当たり前ではない。

圧倒的なチャンネル数を誇るCS放送だからこそそれだけのカバーリングを可能にしたのであり、そうしたサービスを享受することができる幸せを『スカパー!』は私たちに教えてくれた。

「全試合放送」が教えてくれたもの

CLが世界中の人々を惹きつける理由は、なんと言っても「世界最高」と言われる競技レベルだ。

ヨーロッパを代表するビッグクラブ同士が激突するため、プレーの質の高さはワールドカップを凌ぐとさえ言われている。

しかし、CLの魅力はそれだけではない。日本ではまず見ることができない中堅、マイナーチームについて知ることができる貴重な場でもあった。

個人的に印象に残っているのは、2011-12シーズンにおけるヴィクトリア・プルゼニの戦いぶりだ。

チェコのプルゼニは前年に国内リーグを制し、この年、予備予選2回戦から勝ち上がってクラブ史上初めて本戦に出場。しかしグループステージではバルセロナ、ミラン、BATEボリソフと同じグループに入り、第5節を終えすでに決勝ラウンド進出の夢が潰えていた。

最終節の相手は、すでに勝ち抜けを決めていたミラン。

ミランにとっては完全なる消化試合だったが、プルゼニとしては初のCLで世界的名門をホームに迎えるという記念すべき一戦だ。そうしたモチベーションの差が結果にも出た。

パト、ロビーニョというスター選手にゴールを奪われ2点のリードを許したプルゼニだったが、89分、90+3分にそれぞれゴールを奪い、土壇場で追いついて見せた。

試合後、スタジアムはお祭り騒ぎとなり、まるで優勝を決めたかのように選手とファンが一緒になって喜んでいた。プルゼニにとっては、このゲームは意地とプライドをかけた一戦だったのだ。

他にも挙げればキリがないが、大統領も観戦に訪れたAPOEL(キプロス)の躍進や最強バルサを破ったルビン・カザン(ロシア)の大金星も記憶に新しい。

また、ヴェルダー・ブレーメンやリヨン、ボルドー、コペンハーゲンといった中堅が世界最高峰のステージで奮闘する姿は胸を熱くさせた。

2013年にバーゼルで見ていた無名のエジプト人が、今や世界有数のアタッカーに成長し決勝出場を控えているというのも感慨深い。

名門クラブや一流選手ばかりがフォーカスされるCLだが、『スカパー!』が全試合を放送してくれたことで、私はサッカーの新しい魅力や楽しみ方に気付くことができた。

※写真はアウェイでのミラン戦のもの

忘れられない記憶

『スカパー!』のCL中継は「90分以外」の部分も大切にしてくれた。

私が好きだったのは、どの試合もキックオフの15分前から中継を始めてくれたところだった。

CLは海外の強豪を迎えるという意味である種の非日常であり、スタジアムは特別な雰囲気に包まれる。試合前の様子を映してくれたことで現地の盛り上がりや興奮を一緒に味わうことができ、まるでスタジアムにいるかのような感覚に陥った。

また、『スカパー!』は試合後のスタジアムの様子もたっぷり伝えてくれた。なかでも強烈に覚えているのは、2004-05シーズンの準決勝で実現したリヴァプール対チェルシー戦だ。

ルイス・ガルシアによる疑惑のゴールで決勝進出を決めたリヴァプール。チェルシーの猛攻をしのぎタイムアップの笛が鳴ると、アンフィールドは興奮の坩堝に。

このシーズン、リヴァプールはチェルシーと4度戦いながらも一度も勝利できておらず、“五度目の正直”でCL決勝への切符を掴んだのだ。

リヴァプールサポーターはYou'll Never Walk Aloneを歌い、リヴァプール選手たちが歓喜する一方でジョン・テリーは項垂れ、ウィリアム・ギャラスは泣いていた。

そのコントラストはあまりにも対照的であり、CLという大会がトッププレーヤーにとってどれほど重要なタイトルであるかが伝わってきた。

「ユルネバ」がエンディングに近付く中、カメラは少年のように喜ぶジェラードをクローズアップ。

ジェラードはテリーと抱擁する。笑顔のクロード・マケレレと握手する。獲得を打診されていたいわれるジョゼ・モウリーニョとも握手をする。そのカメラワークはまるで映画のようであり、荘厳な雰囲気がそれを引き立たせた。

そして、モウリーニョ自身も接戦を演じたリヴァプール選手と次々に握手し、最後はリヴァプールサポーターに拍手を送りながらピッチを去って行ったのが忘れられない。

私にとってこの年は『スカパー!』を契約し迎えた最初の年であり、ヨーロッパのサッカーに本格的にコミットした初めてのシーズンとなったが、この試合は何も知らなかった私にサッカーの本当の素晴らしさを教えてくれた。この試合に出会っていなかったらここまで深くサッカーに関わることはなかったかもしれない。

これはCL中継に限った話ではないが、『スカパー!』のサッカー中継は“90分以外”の部分も大事にしていた印象を受ける。だからこそ興奮が何倍にも膨らんだり、感動が何倍にも増したのだ。

こうした部分は、やはり制作能力を持った放送事業者ゆえに培ってきたものなのだろう。CL決勝で言えば、試合終了から1時間近く放送を続けることもザラだった。

ちなみに今シーズンの決勝戦も、キックオフ45分前から中継を開始するという気合いの入れぶりだ。

決勝はもちろん現地キエフからの中継である。かなりの経費になるはずだが、決勝という大一番を同局が日本から中継したことはこの15年間で一度もない。

長く幸せな15年間

CLと『スカパー!』の長く濃密な関係はもうじき終わりを迎える。

今回の放映権以降に関しては様々な意見があり、私のように『スカパー!』で見られないことに哀愁すら感じる人もいれば、そうでない人もいる。

私自身、『DAZN』のCL配信に不安を覚えていないと言えば嘘になるが、まだ放送が始まっていないこのタイミングで邪推をするのは不公平だと思っている。

ただ『スカパー!』がこれだけの中継をしてきたことで、CLファンの『DAZN』に対する敷居が上がったことだけは間違いないだろう。

日本にいながら見たい試合が当たり前に見られるという常識を『スカパー!』は築き上げた。映像はもちろんフルハイビジョンであり、放送の遅延や停止、画質劣化なんて心配したことすらなかった。

その意味において、『スカパー!』による15年間のCL放送がこの国におけるサッカー中継のスタンダードを変えた部分は少なからずあったはずだ。

「期末試験の5教科で学年一位を取る」ことを条件に、『スカパー!』の契約を実現させたのが15年前。

高校生の頃は夜中にもかかわらずつい叫んでしまい家族に白い目で見られ、大学時代は夜更かしをしすぎたおかげでいくつもの単位を失った。

しかし、この15年間には数えきれないほどの思い出があり、私がそれだけCLにのめり込むようになったのは間違いなく『スカパー!』が質の高い放送をしてくれたからだった。

そうしたかけがえないのない経験を提供してくれた『スカパー!』には感謝してもしきれない。CLという世界最高峰のスポーツコンテンツを、こうした愛ある放送事業者の下で堪能することができた私たちは幸せである。

『スカパー!』が送る通算1875試合目のCLでは、一体どんなフィナーレが待ち受けているのだろうか。

筆者名:桑村 健太

Twitter:@kuwaken0607

© 株式会社ファッションニュース通信社