石木ダム建設問題 著名人ら議論呼び掛け 「反対を」より「関心を」

 県と佐世保市が東彼川棚町に計画する石木ダム建設について、現地を訪れ、議論を呼び掛ける著名人が増えている。建設予定地に住む地権者13世帯を中心に半世紀近く続く建設反対運動は、公権力への怒りを打ち出すより、里山の素朴な暮らしや美しい自然への共感を広げることで、新たな流れを生もうとしている。
 今月6日、同町公会堂には雨の中、千人以上が詰め掛けた。地権者らでつくる実行委が歌手の加藤登紀子さんらを招き開いたシンポジウム。盛況ぶりに、実行委員長で、地権者の炭谷猛さん(67)は「この日を、(ダム事業の)終わりの始まりにしたい」と興奮気味に語った。
 「千人を集めるには加藤さんを呼ぶしかないと思った」と地権者の一人、石丸穂澄さん(35)は話す。群馬県長野原町の八ツ場ダム建設に反対している加藤さんに手紙で参加を依頼したところ、快諾を得た。集客効果は期待通り。同時にダム問題そのものへの関心の高まりも感じたという。「ダム問題はこれまで『かわいそう』『悲しい』などのイメージがあったが、今は全く違う風が吹いている」。石丸さん自身、明るい色彩とユーモア感覚を取り入れたイラストなどで「かわいそうでない」現地の実情を意識して発信している。
 石木ダムを巡っては、米衣料メーカー、パタゴニア日本支社などが参画するキャンペーン「#いしきをかえよう」も活発だ。これまで伊勢谷友介さん(俳優)、いとうせいこうさん(クリエイター)、坂本龍一さん(音楽家)、小林武史さん(音楽プロデューサー)らが現地を訪れ賛同した。
 キャンペーンは「ダム反対」を強調せず、関心や議論の広がりを重視。賛否両方の意見を聞ける討論会開催を県に求め、街頭とネットで署名を集めている。2月からはほぼ毎週末、有志が長崎市中心部のアーケードで署名活動に取り組む。今月末までの3万筆達成を目指し、27日も呼び掛ける。
 同支社の辻井隆行支社長(49)は「『一緒に反対してください』ではなく、まずはどんな人々がどんな場所に住んでいるのか知ってもらうことが必要」と訴える。「強制的に土地を取り上げ、ダムを造るのか。それとも国が認定した計画を市民の声で見直すのか。民主主義の在り方や幸せの定義を考える上での分岐点であり、一部の人たちでなく、日本人全員の問題だ」
 一方、こうした動きに、地元では冷ややかな声も。町民の一人は「関係ない外野の人たちが騒いでいるだけに見える」。元地権者で、建設推進派の一人は「実体はこれまでの反対運動と変わらないし、これでダム計画が止まることはない」と意に介さない。
 ダム反対運動に詳しい呉工業高等専門学校(広島県)の木原滋哉教授(59)=社会学=によると、著名人を招いて関心を広げたり、討論会開催を求めたりする動き自体は珍しくないが、「石木ダムの場合、地権者が一貫して反対を続けていることや実際の居住地が強制収用の対象となっていることなど全国的に注目される要素がそろっている」と一連の背景を分析。「(利水の恩恵を受ける)佐世保市民を含め、広く関心を集め、議論を深めるのが望ましい」と話す。

石木ダム建設問題の公開討論会開催を求める街頭署名活動=13日、長崎市浜町のアーケード

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