支え合いの現場から 地方包括ケアの行方 福祉村の実践(1

◆住民同士で支え合う 生活支援やサロン開催

 2017年度から全市町村で実施されている介護保険の介護予防・日常生活支援総合事業(総合事業)では、要支援者をNPOや住民団体で支える方策を制度化するなど、地域住民への期待が増すばかりとなっている。財政難、人材難の中で、地域包括ケアシステム構築の難しさが浮き彫りになっている。厚生労働省が総合事業の参考例の一つに挙げ、全国的にも注目されている神奈川県平塚市の「町内福祉村」の取り組みから、地域住民の役割と総合事業の行方を考える。

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 町内福祉村は、地域住民が主体となって地域の支え合いの仕組みを作ろうという平塚市独自の制度だ。常設の拠点にコーディネーターを配置し相談を受けるほか、ふれあい交流(居場所、サロン)、ごみ出しや庭の手入れなど身近な生活支援(地域ボランティア)が中心的な活動だ。

 開設の是非、活動内容とも地域住民の判断。1999年に松原地区町内福祉村が開設されて以降、年に1カ所前後のペースで増え、現在は17カ所になる。

 市は拠点の家賃、運営費などを補助してきた。厚労省が総合事業の参考事例に取り上げたことで注目を集め、全国から視察が相次いでいる。

 市北東部に位置し、田畑や住宅が広がる横内地区(人口約8500人)でも2014年、地区社会福祉協議会と自治会が中心となってボランティアを募り「横内地区町内福祉村(横内スマイル広場)」を開設した。後発ながら多彩な活動を展開している。

 午前8時すぎ、同村の生活支援部会部長、直井義夫さん(76)が自転車に乗って地域を回っていた。1人暮らし高齢者のごみ出しと安否確認を行っているところだ。

 この日の直井さんの分担は80代の女性3人。マンションの女性宅では一声掛けて玄関内に置いてあったごみ袋二つを回収し建物脇の集積所に運んだ。女性は足が不自由で室内の移動にも苦労している。1人でマンションの階段を下り、ごみ出しするのは難しい。「ちょっとしたようなことが、実は大変なんです」と直井さん。

 県営横内団地の女性宅では、ドアの前に置いてあったごみ袋を回収した。同団地の別の女性は安否確認だ。

 ドアホンを押すと、筒井和子さん(85)=仮名=が顔を出した。

 「前歯がぐらぐらして痛くて何も食べられなかった。今日はこれから歯医者に行くところ」と沈んだ表情だ。

 「それは大変。どこの歯医者?」と、直井さんが交通手段などを確認する。約20分ほど、体調や困りごとなどの話が続いた。

 筒井さんは「手が届かないので、電球一つ交換できない。ボランティアの人には本当に助けてもらっています。みんな優しくて、話をしてくれるので元気になる」と感謝の言葉を繰り返した。直井さんは「古くなったベランダのよしずも交換するよ。何でも相談してよ」と念を押して、筒井さん宅を後にした。

 筒井さんへの安否確認は週2回、約2年になる。当初は歩けない時があるほど体調が悪く、ケアマネジャーから相談があった。「最近は随分と調子が良くなり、受け答えもしっかりしてきた。私も感謝されてうれしい。やりがいがある」。直井さんが話した。

※肩書や年齢は取材当時のものです。

 ◆総合事業 介護予防・日常生活支援総合事業(総合事業)では、要支援1~2の人と基本チェックリスト該当者には地域包括支援センターが介護予防ケアマネジメントを実施。訪問と通所のサービスについては、緩和した基準によるサービス、住民主体による支援、短期集中予防サービスなど、多様なサービスを提供するとした。また、症状によっては、これまでの訪問・通所介護の利用も可能としている。

1人暮らしの高齢者宅を訪問し、ごみ出しをする横内町内福祉村の直井さん=平塚市横内

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