父と叔母の被爆体験 小説に 本県出身の被爆2世、森さん(東京在住)「継承」期待、県内全県立高に寄贈

 長崎県出身の被爆2世、森成人さん(63)=東京都江戸川区在住=が、父と叔母の被爆体験に基づいた小説「漆黒の月-長崎原爆投下からの九日間-」(さんこう社)を自費出版し、県内全ての県立高校、公共図書館・図書室計237カ所に寄贈した。森さんは「若い世代に被爆の実相を語り継いでいきたい」と話す。
 「漆黒の月」は森さんの父・寅雄さんと叔母・タエ子さんが生前書き残した被爆体験を、当時の資料に基づいて脚色した小説。原爆投下時、寅雄さんは長崎日日新聞社員の19歳、タエ子さんは純心高等女学校に通う14歳で、2人とも船津町(現在の恵美須町の一部)の自宅付近(爆心地から約2・8キロ)で被爆した。
 作品は被爆直後の「地獄のような」長崎を舞台に、多くのむごい死を目の当たりにしながら生き残ることのつらさや、悲惨な状況における助け合いの尊さなどが、敬虔(けいけん)なキリスト教徒である主人公(モデルは寅雄さん)の目を通して描かれている。
 森さんは佐世保市生まれ。幼少期から高校卒業までを長崎市で過ごした。大学在学中から趣味で小説の創作を始め、これまでに1冊自費出版した。3年ほど前、友人に「原爆の小説を書いてみてはどうだろう」と勧められたのがきっかけで今回の執筆を決意した。
 森さんは、東京では長崎が被爆地だと知らない人がいることに驚き「被爆者の高齢化が進む中、今度は被爆2世である自分たちが事実を伝える番だと感じた」と語る。また県立高校に寄贈した目的として「若い世代には原爆の記憶を風化してはいけないと感じてもらい、長崎から平和を発信してほしい」としている。

「漆黒の月」の表紙

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