"最寄り"の病院まで2時間 避難者たちは危険な道を歩き 命がけで病院へ向かう

仮設住居がひしめくソルトニ国内避難民キャンプ

仮設住居がひしめくソルトニ国内避難民キャンプ

紛争が長引くスーダン西部ダルフール地方。2016年には、ジェベル・マラ地域で大規模な戦闘が発生し、約16万人の住民が避難を余儀なくされた。ソルトニという村では、2年を経たいまなお2万3000人余りが国内避難民キャンプで過酷な生活を送る。

スーダンで国境なき医師団(MSF)活動責任者を務めるエルムンゼル・アグ・ジッドゥは「キャンプ住民は想像を絶する暮らしを強いられている」と現地の状況を語った。

強盗、拉致、殺人は「日常茶飯事」

清潔な水の供給量は少ない

清潔な水の供給量は少ない

荒涼とした大地に設けられたソルトニ国内避難民キャンプには、2万3000人がひしめき合って生活しています。世界食糧計画(WFP)の食糧配給はたった2品目に限られ、分量も減らされました。

キャンプで供給される水の量は1人あたりの1日平均わずか7.5リットル。調理や掃除、洗濯、家畜の飼育をまかなうには不十分です。やむを得ず不衛生な汚水を生活用水として使うため、急性下痢症や黄疸(おうだん)などの病気を招いています。

キャンプの外で木々を拾い集める女性たち

キャンプの外で木々を拾い集める女性たち

国際連合アフリカ連合ダルフール派遣団(UNAMID)が保護しているものの、緊張状態は続いています。キャンプの近くでは武装集団が暮らし、放牧の権利を巡り頻繁にキャンプ住民と衝突。強盗、拉致、殺人は日常茶飯事です。

キャンプの外で木切れや水を調達する女性や子どもが襲撃され、性暴力を含む暴行や拉致の被害に遭うという話も耳にします。男性が監禁され、殺害されることも珍しくありません。

”最寄り”の病院までは2時間弱

幼児を検査するMSF看護師

幼児を検査するMSF看護師

キャンプから最も近く、手術にも対応できる中核病院までは(徒歩で)2時間弱かかります。今は妨害を受けずに来院できるようになりましたが、つい最近まで、武装集団が道を通りかかる人を襲い、病院に行くのも命がけでした。

MSFはスーダン保健省の支援も受けながら、ベッド数35床の病院で患者に対応しています。2016年の緊急対応では、戦闘による多数のけが人を治療しました。現在は情勢が落ち着き、負傷者は減りましたが、いつキャンプが再び襲われるとも分かりません。複数の負傷者を同時に手当てする場合に備え、MSFは警戒を続けています。

また、地元で尊敬を集める伝統的産婆や部族の長老との協力体制のもと、衛生環境の整備や保健衛生の啓発活動も進んでいます。

MSFと会合を持つ地域の伝統的産婆

MSFと会合を持つ地域の伝統的産婆

ここに暮らす避難者はほぼ全員、故郷への帰還を望んでいます。でも、ジェベル・マラ地域で襲撃してきた武装勢力がまだ立ち去っていない今、それは遠い夢です。みな過酷なキャンプを抜け出せず、やむを得ずソルトニにとどまっているのです――。

MSFは1979年からスーダンで活動。現在は北ダルフール州の3病院、西ダルフール州の1病院を活動先とするほか、東ダルフール州で南スーダン人難民の支援プロジェクトを運営している。また、白ナイル州でも2病院を支援し、地元スーダン人と南スーダン人難民を援助。さらに、ゲダレフ州ではカラアザール(内臓リーシュマニア症)治療と、研究プロジェクトを展開している。

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