ヘイト集会容認、市民利用は拒否 川崎市教文会館

【時代の正体取材班=石橋学】川崎市のヘイトスピーチ対策阻止を公言する人種差別扇動家、瀬戸弘幸氏が6月3日午後に市教育文化会館(川崎区)で講演会を計画している問題で、市が市民に対し同日午後の同館の空き施設の利用を拒んでいることが31日、分かった。市は「利用者が増えることでリスクが増すのを避けるため」などと説明。「リスク」となるヘイト団体の利用を容認しながら、市民の権利を制限している格好だ。専門家は憲法が保障する集会の自由を侵す恐れを指摘している。

 中原区の男性は31日、同館窓口で会議室の利用希望を申し出たが、「空いていない」と断られた。キャンセルが出たはずだと新聞報道をもとに告げると職員は「管理運営上の理由で貸せない」と説明を変え、「会館で押さえている。詳しい理由は言えない」と繰り返したという。

 市は神奈川新聞社の取材に対し、講演会当日は会館周辺に差別に反対する多くの市民が抗議に集まるとの想定を明かし、拒否の理由を「利用者が施設に入れなくなる状況もあり得る。利用者が多いほど館の運営に支障が出る。そうしたリスクを減らしたい」と説明する。

 200人が利用できる大会議室は28日にキャンセルが出たにもかかわらず、申し込みができないようインターネット予約システムの画面表示を「予約済み」のままにし、31日にキャンセルが出た視聴覚室も同じ措置を取ったという。

 市は30日までは神奈川新聞社の取材に対しても「運営管理上の問題。それ以上は答えられない」として利用拒否の詳しい理由を伏せてきたが、「警備を協議している県警との信頼関係を考慮して」のことだったという。

 「リスク」を理由に、空き施設を使えないようにする措置は昨年12月に瀬戸氏らが同会館で集会を開いた際にも取っていた。

 ヘイト集会を巡っては子ども向けイベントの会場が同館からの変更を余儀なくされる実害が生じており、この日利用を断られた男性は「公共施設は市民の財産。なのに市はリスクのもとであるヘイト団体を不許可にしないばかりか、市民の利用を妨げるという憲法違反の判断をしている」と憤る。

 31日現在、市は瀬戸氏らの会館利用を容認する方針を変えていない。公的施設でのヘイトスピーチを防ぐガイドラインでは、ヘイトスピーチが行われる恐れ(言動要件)があり、かつ、他の利用者に著しい迷惑が生じる場合(迷惑要件)に使用不許可にできるが、市は「迷惑要件に当たらないと判断している」との見解を示している。

■「憲法違反の可能性も」ヘイトスピーチ問題に詳しい師岡康子弁護士

 地方自治法244条2項は「正当な理由がない限り、住民が公の施設を利用することを拒んではならない」と定める。具体的な理由を明示せず市民の利用を拒否することは憲法上の集会の自由と地方自治法に違反する可能性がある。

 差別に抗議する市民が一般の利用者の出入りを妨げる事態は想定しづらく、川崎市の説明は理由になっていない。出入りの際の「不便さ」程度で拒否すれば憲法上問題があると言わざるを得ない。

 市はヘイトスピーチを未然に防止するガイドラインを全国に先駆けて策定した。ちょうど2年前の5月31日、福田紀彦市長は「市民の安全と尊厳を守る」と宣言し、ヘイトデモ主催者の市立公園利用を拒否すると発表した。ヘイトスピーチが行われるであろう集会を守るのではなく、市民の側に立つという原点に立ち返るべきだ。

6月3日午後の予約にキャンセルが出たにもかかわらず「予約済み」の表示になっているネット予約画面

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