【新社長インタビュー】〈神戸製鋼所・山口貢氏〉鉄・アルミなど「戦略投資、一段と」 「提携や統合再編も選択肢」

――まずは、神戸製鋼所をどういう企業にしたいかについて、ビジョンを伺いたい。

 「第一に、品質問題に対する不適切行為を受け、反省点を強く胸に刻んで再発防止に全力を挙げる。ものづくりを手掛けるメーカーとしては『品質の良い製品を提供する』のが第一の使命。そのためにお客様目線で、お客様を第一に考え、『神戸製鋼は変わった』と言っていただけるように信頼回復に努めたい。企業の存続が危ういという危機感に立って、信頼回復のために愚直に取り組み、今年度は足元をしっかり固めたい」

 「同時に、2016年度から20年度を対象とする5年間のグループ中期経営計画『コベルコビジョンGプラス』に沿って、素材・機械・電力の3本柱の体制確立を進めたい。19年度から22年度にかけて、真岡発電所の1号機、2号機、神戸発電所の3号機、4号機が相次ぎ稼働し、23年度には発電事業で安定的に400億円程度の経常利益が確保できるようになる計画だ。鉄鋼やアルミ、チタンなどの事業では、自動車や航空機を対象とした輸送機軽量化をキーワードに戦略投資を一段と進めていく」

神戸製鋼所・山口社長

――中期計画は、20年度に総資産2兆8千億円、ROA(総資産経常利益率)5%を目指し、その後、電力の新4機稼働後は「環境が悪いときでも経常益1千億円以上、良いときには2千億円」を稼げる利益構造にする計画。変わりありませんか?

 「方向性は変わっていない。ただ、中期計画を策定した3年前と今では事業環境が変化していることから、中間地点(3年目)の今年度に、環境変化を踏まえた見直し作業を行うことを考えている」

――神戸製鋼は世界にも類を見ない複合経営、コングロマリット経営が特徴ですが、過去にはそのメリットを十分に発揮できなかった面があります。事業領域が多岐にわたり、求心力と遠心力のバランスも難しいところですが。

 「当社にはグループ会社212社、関連会社55社があり、国内外で3万7千人の従業員が幅広い事業領域を手掛けている。連結経営推進においては各社が独自性を持って経営に当たることが重要だが、特にグループの共通基盤、インフラ部分については、本体からのグリップを強化することが必要だと認識している。求心力と遠心力のバランスを取りながら、当面はガバナンスに重点を置いて、当社グループに不足している共通インフラ部分を整備・補強していく」

――品質問題対応では、100億~200億円の設備投資を実行する方針です。

 「大きく二つあり、一つ目は人の手が介在しないように自動化を進めること。分かりやすく言えば、検査データがそのまま合否判定や検査成績書発行などにつながるようにすること。二つ目は、工程能力不足が無理な受注生産を行う背景にあったとの反省から、工程能力増強のための設備投資を行うことだ」

――山口社長はこれまで機械事業部門長として、アライアンス戦略を数多く手掛けてきました。建設機械ではCNHとの提携、破砕機では川崎重工業と統合したアーステクニカ設立などを担当。スウェーデンの装置メーカー、クインタス・テクノロジーズの買収を指揮し、これまでにない大型M&Aを実現しました。機械以外の事業でもこうしたアライアンス戦略を考えていきますか?

 「基本的な考え方は極めてシンプルだ。当社は鉄鋼、溶接、アルミ・銅、機械など幅広い業種を手掛ける複合経営を推進しているが、それぞれに個々の事業が強くなければいけない。事業をどう強くしていくかという観点で、具体的に何をするか検討する際に提携や統合再編も選択肢に入れて考えるということだ」

 「会社全体として、どこかの傘下になるとか、どこかの企業と一緒になる(合併する)ということではなく、個々のメニューの中でM&Aも含めて検討していくというものだ。例えば最近、神鋼不動産の株式の75%を譲渡したが、それは当社グループの不動産事業をどう強くするか、どう成長させるかを考えたときにお互いの強みを持ち合って補完できるパートナーと組むことを決めた。株式の75%を譲渡した結果、対価として得られた740億円を当社グループの成長戦略への投資資金として活用し、グループ価値の向上につなげる予定にある」

 「今の例も提携の一種だし、私が携わったスウェーデンのクインタス買収のような案件もある。クインタス買収で、IP(等方圧加圧)装置事業が年間売上高100億円以上になることが見込め、人や金など積極的に経営資源が投入しやすい規模になる。これは当社にとって過去にはあまり実施してこなかった形だが、そうした海外企業とのM&Aや提携(アライアンス)も、両社にとってウィン―ウィンとなり、事業が強くなる一例である。今後も前向きに検討していきたい」

複合経営のメリット最大化/「事業部門間のシナジー発揮」

――今年度の株主総会後から、素材・機械・電力の3本柱について、それぞれ取締役を1人ずつとし、それ以外の取締役は品質やコンプライアンスなどモニタリングを強化する体制にします。

 「これまでは、取締役会はどちらかというと各事業部門のトップが集まるというマネジメントボードの色が濃かった。これを改め、各事業部門の取り組みに対するモニタリングに軸足を移した形に変える考えだ」

 「実は4月以降、できることから新たな形に移行しているのだが、これによる副次的な効果として事業部門間のシナジーを出せるネタが多く見つかってきている」

 「例えば素材系事業を管掌する柴田副社長は鉄鋼出身で、4月から鉄鋼、溶接、アルミ・銅の素材系事業を担当するようになったが、『事業部門間で連携し、横串を通して取り組んだら、製造工程や調達等で、シナジー効果を発揮できる余地が数多くある』と感じているようだ」

 「これまで当社は事業部門間の独立性が非常に強く、バリアフリー化を掲げて取り組んできたものの組織の変革はできていなかった。今回のガバナンス体制の見直しをチャンスと捉え、複合経営のメリットを最大化すべく、部門間のシナジー発揮を目指す」

――主なセグメントにつき、少し細かい事業内容を聞きたい。鉄鋼事業は上工程集約で年700万トンになりましたが、その規模でどうかじ取りしますか。

 「生産規模を追求するのではなく、コスト競争力を強化し、ハイテンと特殊鋼という特長ある製品で勝負していく。海外展開は、米国でUSスチール、中国で鞍山鋼鉄との薄板合弁、タイ・ミルコン社との線材合弁など、ほぼ海外進出の体制は整った。立ち上げ途上の設備の早期戦力化を図り、いかに収益を最大化していくかが課題だ。アジアやインド市場は今のところ日本からの輸出で対応していく方針だ」

――アルミ・銅は。

 「特にアルミはさらに需要が伸びる分野だ。米国・中国の工場の稼働率を上げて早期安定化させ、収益力を向上したい。自動車メーカーなどから多くのニーズが寄せられており、さまざまな検討をしたいと考えているが、品質問題があったこともあり、この1年間は『ものづくりの整流化』に最大限注力したい」 (一柳 朋紀)

プロフィール

 入社時の配属先は神戸製鉄所。製鉄所経理を3年、鉄鋼事業を総括する管理部で4年過ごした。以降は鉄鋼を離れたが、若手時代に培った鉄のマインドは今も持ち続けている。その後は機械部門と経営企画の仕事が長い。

 小中高と北海道で野球少年だった。今はもっぱら観戦。運動は週末のゴルフやウオーキング。趣味は読書など。公私ともに誠実であることを大事に。謙虚で柔らかな物腰だが、芯の強さを併せ持つ。家族は夫人と娘2人。

 山口 貢氏(やまぐち・みつぐ)81年(昭56)北大法卒、神戸製鋼所入社。11年執行役員経営企画部長、13年常務執行役員、15年専務執行役員、17年副社長。北海道出身。58年(昭33)1月8日生まれ、60歳。

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