【MLB】“大谷を裸にする男” データの達人「スタットキャスト」アドラー氏を直撃

エンゼルス・大谷翔平【写真:Getty Images】

MLB公式データ解析システムで大谷を担当する若きアナリスト

 大谷が投げると、大谷が打つと、大谷が走ると、テレビ、新聞、インターネットなどには、すぐに詳細なデータが出てくる。その数字は、高性能カメラやレーダーなどを使って、プレーを瞬時に数値化する「スタットキャスト」と呼ばれるMLB公式データ解析システムによるものだ。2015年にMLBに導入されたスタットキャストで、エンゼルス大谷翔平投手のデータを提供する担当者として一躍名を馳せているのが、若きアナリスト、デービッド・アドラー氏。今回は出身地でもあるニューヨークで、アドラー氏に「データ野球の面白さ」を聞いた。

――今季は一躍有名になりました。

「とても驚いています。スタットキャストチームの中の1人でしかありませんが、オオタニの情報とデータを配信できることを誇りに思います。彼のデータは数値的に見ても驚きが多いので、より多くの人に見てもらいたい、すごさを知ってもらいたいという気持ちです。オオタニはさまざまな分野で飛び抜けた数値を叩き出しています。本当に1人でも多くの人に見てほしいと思っています」

――日本でも大谷に関するデータは連日大きなニュースになっています。それと同時に登場するのがアドラーさんのお名前です。自己紹介をして下さい。

「私はMLB.comに所属しており、スタットキャストのデータ部門にいます。全ての試合で起きる出来事、例えば打球速度、投球速度、打球の飛距離、走塁速度など、どのような動きをしたかの全てが数値化されて、その数値から興味深いと感じるところを見つけ、記者やテレビの実況・解説が使えるように提供しています。大谷のホームランのデータは、すぐにテレビで見られますよね。あとはデータを元に記事を書いたり、選手たちとデータを共有したりします。スタットキャストは、選手の長所を数値化し、データがない頃には評価されにくかった部分も明らかにするので大切なことだと思います。それを活用するのが私の仕事です」

――データの大切さを教えて下さい。

「重要な理由が2つあります。まず、選手の評価、成長のためにチームが活用しているということ。彼らは我々と同じようなデータを重視し、選手がより活躍できるように利用しています。例えば、バーランダーがアストロズに移籍した際、彼のスライダーをより効果的にするために投げ方を変えたり、コールがアストロズに移籍した際はより効果的に変化球を投げるように工夫したりと、実際に効果が出ています。チームが勝つために使用されているということが1点です。

 もう1点は、ファンがデータを見ることができるようになったことです。ファンは今までもデータを求めていました。スタットキャストは、難しいことを数値化しているわけではありません。ファンはいつも、ホームランの飛距離を知りたがっていたし、打球の強さも知りたがっていました。

 今までは正確に測る方法がなかったんですが、ジャッジが120マイル(約193キロ)の打球を打つと、球場で見ている人も家でテレビを見ている人も強いと認識できるようになったし、大谷が112マイル(約180キロ)で打って、101マイル(約163キロ)で投げるという情報があれば、彼に投打両方の才能があると一目でわかるようになりました。なぜなら、その強さで打ったり、投げたりするのは一部の選手にしかできないことだからです。ファンにこの数値を見てもらって、選手やプレーのすごさを理解してもらい、もっと野球を見たり、もっと野球を好きになってもらえるのではないかと感じています」

「スタットキャスト」の達人、デービッド・アドラー氏を直撃【写真:盆子原浩二】

データを見るとプレーの理由がわかる

――いつ頃からこの取り組みは始まりましたか?

「2015年から始まって、現在は3年分のデータがあります。スタットキャストが始動して改善を重ね、選手がダッシュした際のスプリントスピードや、塁間の速さ、捕球の可能性など、さまざまな面でデータが測定され始めました。私個人としては2016年中頃から加入し、よりデータを見やすく、知りたいと感じてもらえるような形にして、テレビなどで使ってもらえるようになりました。データのより深い理解ができるので、まだ成長段階ではありますが、楽しみです」

――全てが数値化されていて、より理解しやすくなっています。

「新しい側面から野球を見ることによって、そのプレーの理由がわかるようになってきました。ホームランの打球ひとつにしても角度や強さ、スピードなど、さまざまな要素があります。そして人々はそれを知りたがっているんです。強い打球にもさまざまな解釈ができるようになりました。我々はファンを飽きさせたくないし、情報過多にしてもいけない。ちょうどよく、全員が楽しめるデータを提供したいのです」

――個人として、スタットキャストの意義をどう捉えますか?

「純粋に興味深いしカッコいいと思います。私自身野球ファンだし、選手のプレーを見るのが好きで、さらにそこから選手にどういうすごさがあるのかが知りたかった。大谷のホームランについても詳しく知りたいし、トラウトの打球がどれだけ速いのかも知りたいと思いました。それが、彼らが素晴らしい才能を持っているからです。スタットキャストとして働き出す前から、データに興味がありました。より野球のこと、グラウンドで起きていることを理解できれば、より楽しめます。とても大切な仕事をしていると思います」

データは野球を語る新しい言語のようなもの

――スタットキャストの将来はどのようになると思いますか?

「野球にとって、とても重要になってくると信じています。考え方としては、野球を語る新しい言語のようなものです。何もなかったところに生まれたわけではなく、そこにあったものに対して新しい価値を生み出して、表現方法が増えたというイメージです。

 チームにとっても、ファンにとっても重要な要素です。ヤンキースはイニング間の休憩中にファンにクイズが出題されています。例えば、『ヤンキースで一番強い打球打った選手は?』という質問が出て、答えはジャッジ、スタントン、サンチェスの3者択一。正解として『スタントンが打った、いついつのホームランだ』という風に出ます。テレビでも同じような形でデータの露出が増えている。より多くのファンに楽しんでもらいたいと思います」

――野球の進化にスタットキャストも大きな影響を与えています。

「私は今関わっている仕事が大好きです。これからもツイッターでデータを共有したり、記事を書いたり、他の記者と共有したりしたいと思っています。僕が興味深いと思うことを他の人も興味深いと思ってくれることがうれしいのです。

 今の取り組んでいるのは、ファンが欲しい情報を提供すること。例えば、アレナドがいい三塁手だということは全員わかるけど、どの点で優れているかというところを数値で提示し、伝えることができます。大谷のスライダーがどれだけ動きがあって、スプリットがどれだけ落ちるかなど、今はボールの動きにも力を入れています。データが増えればよりすごさも理解できると思うので、これからも楽しく有益な情報を提供し続けたいと思っています」

――統計学的に野球を数値化するセイバーメトリクスとスタットキャストの違いは?

「セイバーメトリクスよりも、もっと単純な数値を提示しています。実際に起きていることですね。大谷のスプリットが44球中1本しかヒットになっていない事実を、スプリットの動きを数値化すれば説明できます。トラウトが打つホームランは打球速度が116.8マイル(約188キロ)ですが、これは何の公式も利用していないし、新しい要素ではないけれども、分かりやすい。分かりやすく、興味があることを追求しています。それがファンも求めていることでもあると考えています」

――最後に、自分を一言で表現してください。

「そうですね……。『理論的』かな。それが自分が好きなことだし、していきたいことですね!(笑)」

(Full-Count編集部)

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