【日新製鋼周南製鋼所操業60周年】〈早川淳也常務執行役員所長に聞く〉周南の役割、全体最適見極め明確に 高付加価値のステンレス分野強化、事業統合に向け全所一丸

 日新製鋼周南製鋼所は今年、前身の日本鐵板南陽工場時代から数えて操業60周年のメモリアルイヤーを迎えている。加えて今年は1918年の大阪鐵板製造・徳山分工場時代から見ると創業100年、周南製鋼所が立地する山口県出身の幕末志士と関連が深い明治維新から150年と節目が重なっている。昨年には日新製鋼が新日鉄住金の子会社となり、周南を取り巻く環境は大きく変化。先月には新日鉄住金グループ内でのステンレス事業統合が発表され、61年目は新たな歴史を刻むことになる。2度目の同所所長を務める早川淳也氏に今後の飛躍を聞いた。(小田 琢哉)

――本日7日に60周年を迎えた感慨は。

 「60周年スローガンは『地域とともに60年 輝く鋼(はがね)で更なる飛躍』。お客様、地域の皆様、諸先輩に支えられてきた。山谷は当然あり、リーマンショックなど幾つもの波を超えてきた。人間でいえば還暦であり、日本人的感覚では一つの契機。その60周年を迎えるに当たり、直近のステンレスを取り巻く環境から、年初からより良い年にしたいと考えてきた。今回のステンレス鋼板事業統合は大きな変化ではあるが、決定したからには、製造工場としてはやるべきことは明快だ。子会社化からの1年間で互いの顔・名前も分かっている。ネガティブな感情は全くなく、助走期間があった分、全所一丸でスムーズに進められそうだ」

――完全子会社化とステンレス鋼板事業統合を合わせた300億円のシナジー効果発揮に向け、周南が果たす役割は。

 「周南の特徴はオーステナイト系から、高純度フェライト系まで生産するなどの幅広い生産品種。ただ品種により得意・不得意もある。例えば、事業統合で製鋼の製造拠点は新日鉄住金八幡製鉄所、新日鉄住金ステンレス(NSSC)光製造所、周南製鋼所ということで3製鋼工場、同様に熱延は3工場、冷延・精整工場4工場、これらが一つになり、すごい道具立てが揃うことになる。比較優位で生産性が高まるならば、例えば製鋼は八幡、光、周南でどのような鋼種を生産していくか、全体最適は何かを今後検討していく。その最適解は時代により変化し、多様な組み合わせの中で、自然と周南が果たすべき在り方が定まってくるだろう」

 「統合発表から日が浅く、すべてはこれからだが、無数のピースの無限の組み合わせから、大いなる可能性があると思う。付加価値が高い領域のステンレスを、もっと強くしなければならない。周南としては、衣浦製造所との同期化を一層進め、製造技術のすり合わせを詰めながら生産性を向上させてマーケットへの対応をしっかり進める。併せて、来春の新体制に向かうことができる。立地的に近いNSSC光との技術的交流・連携はすでに始まっている。周南と光をつなぐ国道188号線は通称〝オーステナイト街道〟。まさに運命的だ。NSSC光の社会人野球部・光シーガルズの試合応援にも足を運んでいる」

――足元の生産体制は。

 「マーケットは好調で、受注が取れる分、生産量を伸ばしてほしいとのニーズが高い。製鋼リフレッシュ後の立ち上げに少々苦労したが、オーダーに対する生産ができるようになった。現在は一日稼働で製鋼2千トン、冷延1千トン。前任当時と比較して、板厚の薄さ、硬さ範囲の狭さなど要求される品質は一層高まっており、品種構成は難製造品比率が増えてきている。しっかり製造実力を上げていきたい」

――設備投資計画は。

 「まずは新連続鋳造設備(2CC)の能力をフルに発揮することに尽きる。足元は省エネ、電気品更新を進めている。直近ではNo.4センジミアミル(4ZM)の電気工事を終えた。厚物広幅材を得意とした非常にパワフルな圧延機で、表面や寸法の厳しい精度要求にも応えられる。所内には各種圧延機が多数あり、老朽更新を進めなければいけないものもある。設備新設自体は少ないが、ゼロから設備を作り上げる新設工事は若手にとって最大の勉強の場でもあるので、機を見てチャンスを与えたい」

――安全面は。

 「この6月中旬に完全無災害の1年を迎えることになる。生産工場を預かる身としては、無事にこの1年間を乗り越えて60周年を迎えることが何より。工場の使命は、よいものを、より安く、タイムリーに、創って、造って、届けること。さらにこのサイクルを早く回すこと。安全・安定生産でお客様に製品を届けるためには社員の心身の健康が大切で、常に最高のパフォーマンスを期待している。汚い工場から綺麗な製品が生産できるわけがなく、60年が経過した工場ではあるが改善の手をしっかりと入れ、清掃も行き届かせている」

――統合準備に向けて。

 「製造現場を預かる周南製鋼所としては、各階層でいろいろな情報共有の場を設けて規律面も盛り上げていきたい。受身ではなく前向きに取り組んでいきたい」

――多様な周年事業を企画している。

 「コンセプトは温故知新ReBorn。心を込めた行事を、知恵と労力を惜しまず行う。60年史と記念DVDを作成。駐車場や駐輪場、縁石などを所員の手で日新ブルーに塗装した。体育館の外装も塗り直した。JR徳山駅の新幹線待合コーナーの製品展示ブースを60周年仕様に変更。日本初の広幅ステンレス薄板圧延ラインで、周南の歴史の第一歩を刻んだNo.1センジミアミルの見学コースの整備は9月末に完成予定だ。50周年時から始めた8月の夏祭りは、今年は規模を少し拡大し、10月には近隣住民やOBらを招いての工場見学会を開催して感謝の意を表したい」

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